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オウム真理教と北朝鮮を結ぶルートは存在したのか?――上祐史浩氏が語るオウム事件の真実(2)

‘12年、オウム特別指名手配中の3人が17年の逃亡の末に逮捕され、オウム事件に一つの区切りがつこうとしている。しかし、オウム事件の全貌は明らかにされていない。そんななか、教団内部を最も知る男、元最高幹部の上祐史浩氏がオウム事件の真実を綴った本「オウム事件 17年目の告白」が出版された。彼が語るオウム事件の真実とは何なのか。オウム問題を追及してきたジャーナリスト・有田芳生氏が迫る! ⇒【前編】はコチラ「私はサリン製造計画を知っていた」
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◆オウム―北朝鮮ルートは実在したのか
有田芳生氏

有田芳生氏

有田:今になってなぜ、すべてを明かそうと思ったのですか? 上祐:有田さんはご承知のとおり、アレフ(※1)を脱会してひかりの輪を発足させた’07~’08年にかけて、私はオウム問題の総括を行い、HPに公表しています。ですから、本の中で初めて文章にした部分も多々あるとはいえ、最近になってすべてが急に変わったのではありません。しかし、今までになく詳しい内容を本を書くことになったのは平田(※2)が出頭して菊地、高橋(※3)も逮捕され、オウム事件が一つの区切りを迎えるなかで、過去の反省・内省を改めて行い、執筆に集中する状況・条件が生まれたからです。 有田:それでもなお、一連のオウム事件には謎として残っている部分が少なくありません。例えば、松本サリン事件(※4)と地下鉄サリン事件の間の時期に、「松本サリン事件の一考察」という怪文書が出回りました。松本サリン事件はオウムの仕業だと指摘したもので、内容が非常に詳しいのですが、誰によって書かれたのかいまだに不明です。教団内部から出された可能性はあるでしょうか? 上祐:’93年から翌年にかけて、ヴァジラヤーナを知って教団を去った中堅幹部が2人います。確か教団の「科学技術省」関係者で、サリンまで知っていたかどうかわからないですが、炭疽菌までは知っていた人物と、ボツリヌス菌の製造に関わった人物の2人です。教団があれだけの規模のことをやっていて、一人も内部告発者が出ないのはむしろ不自然だという気がします。だから彼らか、あるいはほかの誰かが内部告発した可能性はあると思います。 有田:次に、テレビでの「ハステロイ発言」から1週間後に、村井さんが刺殺されました。以降、上祐さんはヘルメットをかぶって歩くようになった。具体的に身の危険を感じていたからですか? 上祐:警察に、私がピストルで狙われているらしいという情報が入っていたんです。それを、警備の警察が伝えてきました。 有田:オウムと北朝鮮の関係はどうでしょう?私自身はマンガみたいな話だと思っているのだけれど、世間にはオウムと北朝鮮を結びつけて、面白おかしく話す人が今でもいる。例えば、早川はロシアに20回以上も行っていて、その際、ウクライナ経由で北朝鮮に入ったと指摘する雑誌記事もありました。上祐さんは彼が北朝鮮について話すのを聞いたことはありますか? 上祐:まったくないです。公安警察は、そういった事実があると言っているんですか? 有田:ないと言っています。パスポートでロシアと日本の移動を確認し、そこに北朝鮮に入る隙はなかったと判断したそうです。 上祐:じゃあ、絶対にないですね。そもそもロシアに来ていた頃の早川は、教団武装化の件で麻原に尻を叩かれていて、本当に泡を食っていました。ロシアの軍用ヘリコプター購入の段取りなどで精いっぱいで、北朝鮮になんか行っている余裕はなかったはずです。外国政府と人脈を築くのは本当に大変だし、北朝鮮に行っても、手に入るものはロシア製の兵器しかない。逆にロシアには、国軍のトップまで務めた頼りになる人間がいた。ロシアで手に入るものを苦労して北朝鮮から調達するなんて、まったく合理性がないでしょう。 有田:北朝鮮のチュチェ思想研究会にいた日本人がオウム信者になっていて、その人物が北朝鮮の工作員だと言う人もいる。 上祐:そういう左翼系の人が、少数ながら教団に入ってきていましたけど、そこで北朝鮮と組織的に繋がったということは絶対ない。第一、麻原は自分がキリストになろうとしていたわけで、誰かと組むなんてことは考えていませんでした。ましてや、オウムがロシアや北朝鮮の傀儡になるなど、空理空論です。オウムがお金の欲しいロシアの政治家を巧みに利用していただけです。そういった陰謀説が広まると、陰謀説を唱えて麻原に回帰しているアレフを助長するので、心配しています。 有田:陰謀論は聞いているかぎりではおもしろいですからね。 ⇒【後編】「オウムは皇居周辺への炭疽菌散布を計画していた」
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麻原彰晃

事件後、麻原彰晃は逮捕され、'06年に死刑が確定した。オウム事件の次なる焦点は「いつ麻原の死刑が執行されるか」に絞られつつある

※1 アレフ ’00年2月4日、オウム真理教から改称して発足した宗教団体。内部対立の末に分裂(ひかりの輪が独立)し、麻原の教えに対する原点回帰を強めている ※2 平田信 一連のオウム真理教事件の被疑者として特別手配され、16年以上にわたり逃亡。’11年12月31日に警察に出頭した。公証役場事務長逮捕監禁致死事件などへの関与が疑われており、公判を控えている ※3 菊地直子、高橋克也 一連のオウム真理教事件の被疑者として特別手配され、17年以上も逃亡。’12年6月に逮捕された ※4 松本サリン事件 ’94年6月27日の夕方から翌28日の早朝にかけて、オウム真理教の幹部らが長野県松本市内の住宅街でサリンを散布した、世界初の化学兵器テロ事件。8人が死亡し、660人が負傷した 【有田芳生氏】 オウムや統一教会などカルト宗教問題を取材してきたジャーナリスト。参議院議員。著書に『闇の男 上祐史浩—終わらないオウム真理教』(同時代社)、『メディアに心を蝕まれる子どもたち』(角川SCC新書)などがある 【上祐史浩氏】 ’87年にオウム入信。地下鉄サリン事件後、麻原の指示の下、教団のスポークスマンとなる。偽証罪などで服役後「アレフ」代表となるも、’07年に脱会。オウム信仰を脱却し、現在は自ら設立した「ひかりの輪」代表を務める 構成/李 策 撮影/山川修一(本誌) ― 事件から17年――ついに語られるオウム事件の真実【2】 ―
オウム事件 17年目の告白

教団のスポークスマンとして世間を騒がせた上祐史浩氏が今まで語れなかった真実を告白

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