番外編:カジノを巡る怪しき人々(12)

一歩下がれば、そこは奈落

 必死にネットで検索し、反論を試みようとしていた(笑)「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所」所長の木曽崇が、このところ沈黙しているな、と思っていたら、どうやら全面降伏の宣言を出したようだ(大笑)。 

ここ数日、複数の箇所からお叱りを受けています。相手は週刊大衆紙のライターなんだから、泥仕合でも誹謗中傷でも盛り上げたもん勝ち。それに付き合っても損するばかりだから止めとけと。ご忠告、痛み入ります。(12月7日。@takashikiso twitter

 わたしが「週刊大衆紙(ママ)」のライターかどうかなんてどうでもよろしい。でも敗北宣言まで「他人の忠告」のせいにするのは、なんだかなああ。

 こういう人を、英語では“bad loser”と呼ぶ。

 もっとも相手にされないカテゴリーの人たちである。

 でもわたしは親切だから、木曽に(匿名ではなくて)顕名の「忠告」を差し上げたい。

1)虚偽申告・不実告知は、犯罪である。

2)(一般に)カジノ事業者は、犯罪歴をもつ者を雇用できない。

3)したがって、誰かが告発し、とりわけ立証が容易な「経歴詐称」で有罪の罰金刑でもくえば、その人はカジノ事業者側の人間とはなれない。

「国際カジノ研究所」所長は、以上の3点を肝に銘じておいたほうがよろしい、と考えてしまったのは、わたしの老爺心か。

 木曽に関しては、関係者に対したわずかな取材だけで、いろいろと面白い話をうかがうことができた。

 一般論として、業界内の基本的知識に欠けた人間がハッタリで売り出そうとする際に、いかにも起こりそうな話が多かった。

 カジノに関するNPOを立ち上げるとの名目で、木曽が金集めに動いた際のエピソードなど、失礼ながら、腹の皮がよじれるほど笑ってしまった。

 特別に名づけて差し上げる。

「国際カジノ研究所」所長が主張していたのは、「基礎知識」ではなくて、「木曽知識」だった、と(笑)。

 森巣は議論ではなく「人格攻撃」をしている、と木曽は泣きついているのだが、そもそも、

 ――森巣氏も含めて、こうやってインチキな専門家もどき

 と言いはじめたのは誰だったっけ(笑)。

 で、まだ、

 ――ジャンケット業者は、「ターン・オーヴァー」のパーセンテージの報酬。

 ――ジャンケット業者は、打ち手に金を貸すことはない。

 と主張したいのですか、「国際カジノ研究所長」?

「ターン・オーヴァー」の1.25%を打ち手に戻してくれるジャンケット業者がもし一社でも存在するとしたなら、ほかのジャンケット業者はすべて廃業するしかないのでしょうね(笑)。

 最初の論点を、ずらさないでくださいな(笑)。

 もうひとつ教えて差し上げる。

 ――雉(きじ)も鳴かずば撃たれまい。

 という諺(ことわざ)が存在することを(大笑)。

 相手にする必要がない人なのかもしれない。

 しかし、売られた喧嘩は、買う。

 現在までのところ、わたしの信条だ。

 組織も国家も頼りにせずに、「個」としての才覚ひとつで、これまでなんとか生き凌いできた。

 一歩下がれば、そこは奈落。

 そういう局面が、何回もあった。

 引いたら、潰れる、潰される。

 だから、売られた喧嘩は、わたしは買うのである。

「したり顔で嘘情報ばかり流布」したのは、いったいどちらだ

 相手にする必要がない“bad loser”を、相手にしているのも、虚しい。

 おまけに、飽きてきた。

 そろそろ『ばくち打ち』第三章に取り掛かろうと思う。

 まあ、これからも「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所」所長が、その「木曽知識(笑)」から生じる(あまりにも低レヴェルな)フシをつけてくるなら、いくらでもやってやるが。 

「まず最初に、『森巣氏も含めて、こうやってインチキな専門家もどきが出てきて、したり顔で嘘情報ばかり流布する』とまるで無根拠に書かれ、明らかに名誉を毀損されたのは森巣さんのほうなんだから、その反論は、どんどんおやんなさい」

 と、知り合いの弁護士からも煽られていることだし(笑)。

「インチキな専門家もどき」として、「したり顔で嘘情報ばかり流布」していたのは、いったいどちらだったのだろう(笑)。

 ついでだけれど、この弁護士ですら、「ターン・オーヴァー」と「ロール・オーヴァー」の違いを知っていた(大笑)。

銘すべき言葉

「井川のアホぼん」も、またわたしが彼への引き合いに用いた元狛江市長「石井のサンユーさん」も、ゲーム賭博が提供する悩ましい罠に、まんまと嵌まってしまった。

 お2人とも、推定百数十億円を、バカラ卓に張られた染みひとつないグリーンの羅紗の上で溶かした。

 1人は、市長職を辞任すると、そのまま失踪した。

 もう1人は、東京地検特捜部に逮捕され、現在東京拘置所でしゃがんでいる。

 百数十億円と言えば、フツーの人たちにとっては、眼が回るような金額であろう。

 それを、「不可測な未来を可測しようとするこころざし」である博奕、で失った。 

 前述したが、繰り返す。

 そもそも、矛盾した快楽行為(あるいは絶望行為)が博奕なのである。

 その矛盾した快楽行為(あるいは絶望行為)で、およそ90人分から100人分の生涯収入を失っただけあり、失脚(発覚)後、お2人ともひどく哲学的なコメントを発している。

「サンユーさん」の、

「それでもバカラは、最高のゲームです」

 とする名台詞は、すでに紹介済みだ。

「井川のアホぼん」も、「サンユーさん」に負けていない。

 以下は、東京地検特捜部に逮捕された11月22日に、井川が弁護士を通して文書で発表した「お詫び」である(共同配信、概要)。

 この度は、世間の皆さまを大変お騒がせし、心からおわび申し上げる。私が大王製紙の関連会社から、延べ100億円余りの融資を受け、これを全ての私の個人的用途に使ったことは事実だ。また、借入金のほとんどをカジノでのギャンブルに使ったことも事実だ。きっかけは、私が株の先物取引、外国為替証拠金取引(FX)で多大な損失を出した後に訪れたカジノでもうけ、当初、大きな利益を得ることもあり、その深みにはまったものだが、全ては私の不徳の致すところで深く反省している。借り入れは全て私一人が行ったものであり、融資をしてくれた関連会社の担当役員らは単に私の要請に応じてくれたにすぎず、私一人に責任があると考えている。借入金の残金については、私が保有する関連会社の株及び現金により返済する旨を通知しているが、種々の問題により具体的返済に至っていないのが実情だ。今年3月に借り入れについて父から叱責を受けたにもかかわらず、その後も借り入れを続けた私の問題であり、4月以降の借り入れについては9月まで父も弟も知らなかったもので、責任は全て私にある。

「責任は全て私にある」

 いいねえええ。

 よく言った。

 ロンドン時代から数えれば、約40年間、

 ――刺さなければ、刺される。

 ――殺さなければ、殺される。

 そういう世界でシノギをしてきたわたしのような者にとり、

「カジノで(中略)その深みにはまった」

 とする井川のコメントは、しみじみと心に沁みた。

 深い世界である。

 冥府魔道の世界だ。

 阿鼻叫喚の地獄である。

 矛盾するようだが、まさにそれゆえ、感情などが入り込む余地のない「まっさらな快楽」の予感がする。

 だから、博奕は面白い。

 だから、博奕は怖い。

 それで、博奕は止められなくなってしまう。

「その深みにはまった」

 もって銘すべき言葉だろう。

番外編・「カジノを巡る怪しき人々」完。フシがついたら、「つづく」かもしれないけれど(笑)。

⇒第3章:我慢していれば、好機は必ず訪れる 

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。