番外編:カジノを巡る怪しき人々(11)

ローリング娘は、なぜ存在するのか?

 なぜ、「ノンネゴシアブル・チップ」が存在するのか?

 なぜ、ジャンケット・ルームやプレミアム・フロアの壁際には、「ローリング娘」たちが控えているのか?

 なぜ、ジャンケットやプレミアム・フロアの打ち手たちは、「ローリング」と声を張り上げ、自分の坐る勝負卓まで「ローリング娘」を呼ぶのか?

 なぜ、ローリングが終了するたびに、「ローリング娘」の差し出す伝票に、打ち手たちは、いちいちサインするのか?

 繰り返す。

 いかなる形態でも表現をこころざす人間は、現場を踏まなくてはならない。

 それが、表現者としての最低限のモラルであり、良心である、とわたしなど心得る。

 現場を踏めば、簡単に理解できることって、あるんです。

 すくなくとも、木曽が犯したようなバカバカしい間違いを避けられる。

 まして「日本で数少ないカジノの専門研究者」を名乗りたいのであれば、なおさらであろう。

 基本的・初歩的な部分での経験も知識も欠いた人間が、「カジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所長」を名乗り、珍妙な発言を繰り返す。

 事実に立脚しない、妄想を撒き散らす。

 大口を叩く(笑)。

 木曽は、そのブログで、

 ――ジャンケットは総ベット額(=ターン・オーヴァー)のパーセンテージの報酬。

 ――「ジャンケット業者が負けた者にはどんどん貸す」のは間違い。

 ――「『よく知らない事』に対して適当にコメントするのは控えましょう」

 と主張した。

 わたしは、

 ――下位ジャンケットは「ロール・オーヴァー」のパーセンテージへの報酬。最上位ジャンケットは、多くの場合、ハウスと「勝ち負け折半」の契約。

 ――ジャンケット業者は負け込んだ打ち手に金を貸す。

 と主張した。

 本連載をここまでお読みになって、いったいどちらが初歩的・基礎的知識にすら不足し、「いい加減」で「嘘情報ばかり流布」しているのか、読者が判断していただきたい。

 ――『よく知らない事』に対して適当にコメントするのは控えましょう。

 とする木曽の提案には、まったく同意する(笑)。

 そういう合意があるなら、なぜ木曽は「よく知らない事」へ「適当にコメントする」のを「控え」ないのか(笑)。

 もっとも、化けの皮が剥がされた現在、「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所」所長は、恥も外聞もなく、逃げ回っているみたいなのだが。そうじゃなければ、反論してみなさい(大笑)。

 お断りしておくが、わたし自身は、いままで「カジノの研究者」を名乗ったことは、一度もない。わたしは、打ち手側の人間だ。

 しかしながら、(木曽が、自分はそうだと主張する「事業者」側や「業界」側ではなくて)打ち手側の人間ですら当然のごとく理解していることを、まったく知らなかった「日本で数少ないカジノの専門研究者」って、いったいなんなんだ?

 これまで、日本におけるカジノ公認化を目指し、長期にわたり地道でときとしては困難な努力を続けてきた、経験も知見も豊富な「本物の研究者」たちにとって、木曽のような存在は迷惑以外のなにものでもなかろう。

「国際カジノ研究所」所長・木曽崇は、この点に関する応答責任がある、とわたしなど考えてしまったのだが、いかがか?

妄想を膨らませているばかりでは仕方ない

 木曽は、「ロール・オーヴァー」という言葉は、「カジノ経営学」の教科書に載っていないから、そんなものは存在しない、と主張する。

 す、す、すごい。

 感動した(笑)。

 通常、世の中は、教科書には載っていないことで溢れ返っているのだが(大笑)。

 そりゃ、「ホテル内の“バフェ”と“カフェ”で現金以外の売上日計を算出しデータとして管理」していたとするなら、「ノンネゴシアブル・チップ」を見かけたことはなかろうし、また「ロール・オーヴァー」という言葉を聞いたこともあるまい。

 しかしマカオのVIPフロアなら、たとえそこが「ジャンケット・ルーム」であろうと、「プレミアム・フロア」であろうと、始終眼にするものであり、頻繁に聞く言葉なのである。

 なぜか?

 それらの部屋では、「ノンネゴシアブル・チップ」でなければ、プレイできないのだから(大笑)。

 昨夜大勝し、今朝は気分もいいので、ついでだから、「日本で数少ないカジノの専門研究者」で「国際カジノ研究所長」に、カジノにかかわるきわめて基本的かつ初歩的・基礎的な用語の無料レクチャーをして差し上げる。

 ――「キャッシュ・チップ」で「ノンネゴシアブル・チップ」を購入することを、「ローリング」と呼ぶ。

 どう、驚いた?

 知らなかったんでしょ(大笑)。

 それゆえ、「ノンネゴシアブル・チップ」は、「ローリング・チップ」とも呼ばれるようになった。

 また、

 ――「ローリングの(=キャッシュ・チップでノンネゴシアブル・チップを購入した)総額」を、「ターン・オーヴァー」と対比させ「ロール・オーヴァー」と呼ぶのである。

 ジャンケットやプレミアムのフロアで働く人たちは、まず100%の確率で、「ロール・オーヴァー」と言う。

 なぜ、キャッシュ・チップで、ノンネゴシアブル・チップを購入しなければならないのか?

 いや、そもそも、最初の「バイイン」の際にノンネゴシアブル・チップだけを渡された打ち手の手元に、どうしてキャッシュ・チップが存在するのか?

 これもきわめて初歩的な疑問だが、その仕組みについては、本連載第二章でよく説明した、と考える。

 木曽が検索の末、やっと見つけだした「rolling amount」という言葉は、主にCAGE(キャッシャーおよびそこにつながる会計部門)内の職員が、「プログラム」終了時の打ち手との「清算」のために用いるものである。CAGE内ではどうあれ、フロアではほとんど聞かない。

 それはちょうど、フロアで「turning amount」という言葉は使われず、その代わりに「turn-over」と呼ぶのと同様だ。

 まあ、「日本で数少ないカジノの専門研究者」から、「プログラム」ってなんだ、聞いたことがない、とまたフシをつけられそうな予感がするのだが(笑)。

「日本で数少ないカジノの専門研究者」を自称とはいえ主張したいのであれば、木曽さん、すくなくとも、現場をお踏みなさい。

 現場を踏めば、必ず見えてくることがあります。

 本やネットの検索だけで、妄想を膨らませていても、わからないことがたくさんあるのですよ(大笑)。

(つづく)
⇒番外編:カジノを巡る怪しき人々(12)「一歩下がれば、そこは奈落」

PROFILE

森巣博
森巣博
1948年日本生まれ。雑誌編集者を経て、70年代よりロンドンのカジノでゲーム賭博を生業とする。自称「兼業作家」。『無境界の人』『越境者たち』『非国民』『二度と戻らぬ』『賭けるゆえに我あり』など、著書多数。