シャラポワの本音を“微表情”の専門家が分析「『私のせいだけじゃない』と思っている」
3月7日、女子テニス元世界ランキング1位、マリア・シャラポワ選手が薬物検査で陽性反応を示した件で記者会見を行い、常用していた薬物「メルドニウム」が禁止薬物指定されていたのを気づかず使用していたと釈明。
スポンサーが次々と契約を停止するほか、4年間の出場停止処分が課される可能性も示唆され、一気に窮地に追い込まれている。
「気づかなかったなどあり得ない」という批判や疑惑の声が高まる中、シャラポワの真意は一体どこにあるのか?
そこで、「微表情」の専門家・清水建二氏にシャラポワの「本音」を分析してもらった。
微表情とは、抑制された本音や「真の感情」が一瞬で顔に表れて消え去る表情のこと。その多くは0.2秒以内に行われるため目視で認識することが困難で、通常の会話では8~9割が見落とされてしまう(※「微表情」にあたる英語表記は、“micro expression”、”subtle expression”、“mini expression”などの用語に大別され、細かく分類されるがここでは総じて「微表情」とする)
微表情を読み解く精神行動分析学者を主人公にした米テレビドラマ『Lie to me』でも見られるとおり、アメリカにおいて微表情学はポピュラーでFBIの取り調べにも活用されているが、日本ではまだそれほどの普及は見せていない。清水氏は、日本国内にまだ数名しかいないと言われる認定FACS(Facial Action Cording System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人である。
◆Maria Sharapova Fails Drug Test(https://youtu.be/vPraj90kcIg)
できれば動画を再生しながらご覧いただきたい。 清水氏は、この会見におけるシャラポワについて「全体的に細かい部分に曖昧さは残るものの、発言の軸自体にウソは読みとれない。しかし、責任は自分だけにあるわけではないと感じている心理が推察されます」と話す。 表情・動作・声のトーンからシャラポワは「全責任を自分で負うべきだと心の底から思うほど、自分を責めているわけではない。今回の問題の責任の所在について納得はしていないものの、公の場で一定の責任を認めていることはアスリートとしての誠実な態度が伺えます」という。 ただし微表情とは別に、時折見せる微動作を併せて見ると、会見で発言されている以上のことがまだ隠されている可能性もあるとも示唆する。 「『全責任は自分にある』と言いながらシャラポワ選手の視線が下がります(00:16あたり)。さらによく観察するとこのセリフを全て言い終わる前に視線が下げられているのがわかります。通常、自分の発言に責任を持つときは全て言い終わるまで発話相手に視線を向け続けます。このことから、シャラポワ選手は自身の発言に躊躇があることが推察されるのです」 続いて、左手で右手を覆う動作(00:25)。 「これは『マニュピュレーター』とよばれる動作で、感情にブレが生じると起きる現象です(一般的によく見られるマニュピュレーターの例として、手で顔をさする、手をすり合わせる、貧乏ゆすりをするなどが挙げられる)。このときシャラポワ選手は、メルドニウムを処方された経緯を家族医に求めています。処方された経緯について話すとき感情がブレるのは不可解ですが、この会見からだけではその理由を特定することはできません」 ただ、マニュピュレーターを「ウソのサイン」だとする見解があるが、ウソをついていなくても、感情にブレが生じるとマニュピュレーターが生じることがあるという。 「『メルドニウムが禁止薬物になったことを知らなかった』と言ったあと、シャラポワ選手はため息をついています(01:06)。これは、落胆のため息だと推察されます。ため息は自分の不注意さの表れの可能性もありますが、自分をサポートするトレーナーや医師、関係者に対する「自分に注意喚起してくれなかったこと』への落胆とも考えることができます」 疑惑の焦点となる部分であるが、この発言のときには言動不一致となるような微表情・微動作はないという。「この発言はウソではない、もしくはウソをついている意識がない可能性が高いと考えられます」。 01:29でも左手で右手をさするマニュピュレーターが観察されるが、糖尿病とメルドニウムの関係を話すとき感情のブレが生じる理由は、この会見映像だけからは判断できないという。 そして、彼女の心からの本音が窺い知れるのが、2:00前後。会見中で最も声のトーンが変わる場面で、この数秒間にシャラポワはテニスと幼少期の自分との関りを話している。 「会見全体を通して声のトーンは一定ですが、この場面では最も感情の高ぶりを観察することができます。特に02:02の表情に注目すると、眉がハの字になり、口角がさがり、下唇が押し上げられているのがわかります。これは悲しみの微表情です。悲しみは『大切なものの喪失』を原因に起きる現象。テニスができなくなる自分、テニスで生きる自分、テニスに誇りを感じる自分という大切なものを今回の件で失いつつあることに悲しみを感じていると推察できます。悲しみが抑制されている理由は、会見という公の場でプロのアスリートが涙を見せる弱さをみせるわけにはいかないという自負心からでしょう。声のトーン、微表情から推察するに、テニスを真に愛している、テニスこそ自分が生きる道という彼女の心にウソはないと推察されます」 事の経緯に不明瞭な点は多いが、どうやら彼女の“テニス愛”だけは本物のようだ。長年、女子テニス界のアイコン的存在を担ってきたシャラポワの今後を見守りたい。 次回の微表情分析は「ドナルド・トランプ vs ヒラリー・クリントン」をお届けする。 〈取材・文/アンヨナ〉
「注意深く観察していると、たとえば政治家が『原発は安全です』と断言しながらほんの一瞬、恐怖の表情を浮かべたり、人気アイドルがさりげなくファンに嫌悪の表情を向ける瞬間などが多々あります。しかし微表情は通常、どれもほんの一瞬なので目視することは困難。『良い人に見えるけど、何か嫌な感じがする』『嘘をついている感じがする』といった場合は、この微表情から言語以外の情報を感じ取っているからなのです」
今回、分析に使用してもらったのは、以下の記者会見動画。
できれば動画を再生しながらご覧いただきたい。 清水氏は、この会見におけるシャラポワについて「全体的に細かい部分に曖昧さは残るものの、発言の軸自体にウソは読みとれない。しかし、責任は自分だけにあるわけではないと感じている心理が推察されます」と話す。 表情・動作・声のトーンからシャラポワは「全責任を自分で負うべきだと心の底から思うほど、自分を責めているわけではない。今回の問題の責任の所在について納得はしていないものの、公の場で一定の責任を認めていることはアスリートとしての誠実な態度が伺えます」という。 ただし微表情とは別に、時折見せる微動作を併せて見ると、会見で発言されている以上のことがまだ隠されている可能性もあるとも示唆する。 「『全責任は自分にある』と言いながらシャラポワ選手の視線が下がります(00:16あたり)。さらによく観察するとこのセリフを全て言い終わる前に視線が下げられているのがわかります。通常、自分の発言に責任を持つときは全て言い終わるまで発話相手に視線を向け続けます。このことから、シャラポワ選手は自身の発言に躊躇があることが推察されるのです」 続いて、左手で右手を覆う動作(00:25)。 「これは『マニュピュレーター』とよばれる動作で、感情にブレが生じると起きる現象です(一般的によく見られるマニュピュレーターの例として、手で顔をさする、手をすり合わせる、貧乏ゆすりをするなどが挙げられる)。このときシャラポワ選手は、メルドニウムを処方された経緯を家族医に求めています。処方された経緯について話すとき感情がブレるのは不可解ですが、この会見からだけではその理由を特定することはできません」 ただ、マニュピュレーターを「ウソのサイン」だとする見解があるが、ウソをついていなくても、感情にブレが生じるとマニュピュレーターが生じることがあるという。 「『メルドニウムが禁止薬物になったことを知らなかった』と言ったあと、シャラポワ選手はため息をついています(01:06)。これは、落胆のため息だと推察されます。ため息は自分の不注意さの表れの可能性もありますが、自分をサポートするトレーナーや医師、関係者に対する「自分に注意喚起してくれなかったこと』への落胆とも考えることができます」 疑惑の焦点となる部分であるが、この発言のときには言動不一致となるような微表情・微動作はないという。「この発言はウソではない、もしくはウソをついている意識がない可能性が高いと考えられます」。 01:29でも左手で右手をさするマニュピュレーターが観察されるが、糖尿病とメルドニウムの関係を話すとき感情のブレが生じる理由は、この会見映像だけからは判断できないという。 そして、彼女の心からの本音が窺い知れるのが、2:00前後。会見中で最も声のトーンが変わる場面で、この数秒間にシャラポワはテニスと幼少期の自分との関りを話している。 「会見全体を通して声のトーンは一定ですが、この場面では最も感情の高ぶりを観察することができます。特に02:02の表情に注目すると、眉がハの字になり、口角がさがり、下唇が押し上げられているのがわかります。これは悲しみの微表情です。悲しみは『大切なものの喪失』を原因に起きる現象。テニスができなくなる自分、テニスで生きる自分、テニスに誇りを感じる自分という大切なものを今回の件で失いつつあることに悲しみを感じていると推察できます。悲しみが抑制されている理由は、会見という公の場でプロのアスリートが涙を見せる弱さをみせるわけにはいかないという自負心からでしょう。声のトーン、微表情から推察するに、テニスを真に愛している、テニスこそ自分が生きる道という彼女の心にウソはないと推察されます」 事の経緯に不明瞭な点は多いが、どうやら彼女の“テニス愛”だけは本物のようだ。長年、女子テニス界のアイコン的存在を担ってきたシャラポワの今後を見守りたい。 次回の微表情分析は「ドナルド・トランプ vs ヒラリー・クリントン」をお届けする。 〈取材・文/アンヨナ〉
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