バカ売れLINEスタンプが生まれる背景――静岡発の「パンパカパンツ」大ヒットの秘密
現在進行形で拡大を続けるLINEスタンプ市場。急成長のきっかけとなったのが2014年5月にスタートしたクリエイターズスタンプの登場だ。以後、市場は拡大の一途をたどり、今やその数は国内だけで約12万個にものぼる。
公式スタンプかクリエイターズスタンプかを問わず、膨大な数の中に埋もれるスタンプが少なくない中、常にランキング上位に位置し、ユーザーから絶大な人気を得ているスタンプがある。
それがアニメ『パンパカパンツ』シリーズだ。2008年に静岡放送とDLEとが共同開発したキャラクターとして、静岡のローカル番組に登場した同作は、熊本や山形、そして東京と放送エリアをひろげ、徐々に人気を拡大。2014年には劇場版も公開された。
2013年に第一弾がリリースされたLINEスタンプは、決してメジャーなキャラクターとは言えないながらも、ユーザーからの熱狂的な支持を集め、ダウンロードランキング1位を獲得。また日本だけでなく、アメリカや韓国などでもランキング1位を獲得している。
静岡から飛び出したパンパカパンツは、今や世界的大ヒットの可能性を秘めたコンテンツと言っても過言ではないだろう。
ユーザーから支持されるLINEスタンプはどのように生まれるのか。パンパカパンツの企画・制作・権利元でLINEスタンプも共に手掛けるDLEのアニメ監督・べんぴねこ氏とプロデューサーの水戸崇雄氏に話を聞いた。
――パンパカパンツのLINEスタンプは私もよく使っています。ほかのスタンプと何が違うかと言えば、その動き。パンパカパンツという生き物がまるで本当に存在していて、LINEの中で自由気ままに動いているように見えます。
べんぴねこ(以下、べんぴ):ありがとうございます。
――なにより、パンパカくんの動きが特徴的です。2014年にアニメーションスタンプをリリースしたことが人気が急拡大したきっかけだったのでしょうか。
水戸:キャラクターを動かせるようになったのは大きかったですね。当時はまだ動くスタンプと言えば、コニーやブラウンなどのLINEオリジナルキャラクターと吉本興業さんの芸人モノしかなかった。それと同時期にパンパカパンツは動くスタンプを出したので、リリースするタイミングとしてはかなり早かったです。
べんぴ:そう。早かった。動くスタンプが出せると聞いて「やっとパンパカくんを動かせるようになったか!」と思いました。アニメ業界にいる我々はキャラの動きで圧倒的に差をつけるぞ、と意気込んだのを覚えています。
――パンパカくんを動かせるにあたって、何か参考にしたスタンプやアニメの動きはありましたか?
べんぴ:何も参考にしていないです。というか、着手したのが初期だったので他のスタンプを参考にできなかったんですよ。逆に、最近では「パンパカパンツを見て勉強しているな」と思わせるスタンプはいくつか見ますよね。
――もともとアニメがあったとは言え、一から動きを作っていったんですね。
水戸:一般に、動くスタンプを作ろうとなれば、『ドラえもん』のようなアニメキャラなら、綿々とつづくアニメ作品のシーンに基づく動きを参考にスタンプにしていくのかもしれませんが、パンパカパンツの場合はとくにネタ元がない状態でスタンプを作っていきました。
――『パンパカパンツ』のアニメ作品があれど、スタンプ用に初めて作った動きがあるということですか?
べんぴ:かなりあります。その意味で、スタンプがパンパカパンツの動きを形作ったと言ってもいいかもしれません。
――たとえば、電車に乗っている動きはアニメには出てきてないですよね。
べんぴ:そう、これはスタンプを作るときに生まれました。
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――「電車に乗る」と言っても、車内ではなく車両の上に乗るという発想はなかなか浮かびませんよ(笑)
べんぴ:よくバスや飛行機の窓からキャラクターが顔を出しているスタンプってありますよね。でも、そういうのはアニメキャラの動きとしてきわめてオーソドックス。なので、車両の上に乗せちゃえ!となりました。
――とは言っても、キャラクターに思い切った動きをさせるのは、作り手として勇気がいりませんか?
水戸:思い切れる理由があるとすれば、キャラクターの権利が他社ではなく自社にあるというのが大きいかもしれません。パンパカパンツのアニメをつくっているのも、スタンプをつくっているのも自社。なので、誰にも遠慮をする必要がない。
これとは違って、漫画原作のものであれば、出版社があって、漫画家の先生がいて、編集者がいて、スタンプを作るアニメーターがいる…という環境だと「このスタンプの原作アニメの世界観と違う!」と誰かから言われてボツになるのかもしれません。
――アニメの世界観がスタンプの開発に影響を与える可能性がある、と。
水戸:たとえば、ドラえもんのスタンプを作るとしたら「ドラえもんはこんな動きしない!」と原作者などから言われるのかもしれない。でも、パンパカパンツの場合は、自分たちのキャラなので、自分たちでキャラクターイメージの殻を破れるし、ルールも作れる。だから意外性のあることはやりやすいんです。
――スタンプに自由にアイディアを落とし込めるというわけですね。
水戸:はい。パンパカくんが電車をまたごうが、車両の上に乗っかろうが構わないんですよ。とにかく面白ければいい、かわいければいいというルールのもとで、自分たちで自由に決められるんです。
べんぴ:冬に出たシリーズのスケートの動きは、当初は滑って転ぶだけだったんですが、最終的には転んで立ち直る動きにしました。冬なのでスケートをさせるまでは誰でもアイディアが浮かぶと思うんです。でも、本当にスケートを滑って転ぶだけでおもしろいの?と考えた。リリースタイミングが受験シーズンと重なるわけだし、七転び八起きでいこう、となりました。出来上がる直前のギリギリに詰めましたね。
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水戸:たとえばこれが完全に分業化されて、監督がある日までにアイディアを出し、それを受けてアニメーターがまたある日までに制作し、担当への納品し、という一方通行の流れで、それぞれに締め切りがあったとすれば、ギリギリまで粘れないだろうし、途中でアイデアを出し直したりもできないわけです。その意味で、ひとつの会社でそれらが完結しているDLEならではの作りこみができていると思います。
――例えるなら、パンパカパンツにおいてアニメとスタンプは双子のような関係かもしれませんね。どちらが先ということがほとんどない。それは初期からずっと変わらないのでしょうか。
べんぴ:変わらないです。なので、LINEスタンプの動きだったものをアニメに使うこともあるんですよ。このスタンプの動き、今度のアニメに使えるんじゃない?ってチームで話し合って実際にアニメに入れちゃう。
――それはかなり今っぽい動きですね。LINEスタンプを元にした動きがアニメ番組で流れて、両者で相乗効果を生んでいます。
水戸:すでにパンパカパンツのスタンプも第8弾になるので、過去作の評判や、ほかのLINEのスタンプなど、研究しています。
――人間の動きをパンパカパンツのスタンプに落としこむとき、注意している点はありますか。
水戸:5歳児の「子どもあるある」を取り入れたりしています。最近リリースされたシリーズの泣いているパンパカくん、その前のシリーズの積み木遊びをしながら「いま忙しいの」と口にするパンパカくんは子どもの動きや佇まいなどをモデルにしています。
――「いま忙しいの」は、個性的ですよね。普通、キャラクターに忙しさを表現させるならば、書類整理やパソコンなどの事務作業をさせると思うんです。でも、パンパカパンツは積み木遊びで忙しさを表現している。スタンプが届いた相手からすれば「お前、いま絶対忙しくないじゃん!」とツッコミたくなる(笑)
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べんぴ:そうそう(笑) 音声がついてることで、子供っぽさがよりわかりやすく想起されますよね。この時期から、5歳児っぽい動きが増えた気がします。
水戸:パンパカくんがお腹を抱えて「あっはっはっは」と笑っているものや、地団駄を踏んで「うらやましい」とゴネる動きも同じジャンルです。
――とは言え、「5歳児っぽさ」がない動きでも個性的なものが少なくありません。パンパカくんが一瞬で老けてしまう「よぼ~ん」や、三代目J Soul Brothersの『R.Y.U.S.E.I』のダンスを彷彿とさせる「ふわふわ」。バッグにパンツをしまう「しおーっ」もおもしろいです。これらはどう生まれたんですか?
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べんぴ:「しおーっ」が入っているシリーズの1つ前にパンパカくんが「帰りたい…」と口にするスタンプがありました。トレンチコートを着たパンパカくんが都会の喧騒に消えていくというものです。
――ありましたね。
べんぴ:パンパカくんがしょんぼりしているんですよね。僕はそれがけっこう好きだったんです。で、次のシリーズでも同じ「しょんぼり系」を入れたいなと思って。それで昭和の大人がしてそうな仕草はないかな…という発想で思いついたんです。
水戸:それを監督がアイディアだけ出して、それをアニメーターが具体的な動きに落とし込んでいったわけです。
べんぴ:うちのアニメーターはすごいですよ。こっちの期待を越えてきますから(笑) 僕はパンパカくんが旅支度をする動きまでは決めました。それをアニメーターに提出したら「パンツを畳ませていただけないでしょうか?」と提案された(笑)
たしかに、パンツを畳まなかったらパンパカパンツの「パンツ的要素」がなくなってしまうので、まあパンツを畳むのもいいかな、と(笑)
――「パンツ的要素」(笑)
べんぴ:それでパンツ的要素を入れたんですけど、困ったのはスタンプと一緒につけるセリフ。動きが決まってからもセリフはなかなか決まらなかった。
すでにパンパカパンツのスタンプは海外展開していたので、各国語でニュアンスが伝わるものでなければならないし、どうしようかなあと悩みました。
水戸:スタッフが集まって議論していたのですが、しばらく沈黙が続いて。
べんぴ:そしたら、入って1週間くらいの新人スタッフが「…しおーってどうですか?」とボソッとつぶやいた。「…え? いまなんて言った!?」と、みんな振り向いて「いいじゃん!」と満場一致。それが採用になったんです。初めて彼が口を開いた瞬間でした(笑)
――「しおーっ」はとても抽象的なセリフなので使い勝手がよさそうですね。逆に具体的すぎるセリフだとスタンプとして使える状況が限られそうです。
べんぴ:キャラクターが話すセリフになぜ我々が悩むのかというと、どうしても長くなってしまうからです。理想的なのは最もコンパクトなフレーズで、ユーザーが色んな状況で使えるもの。「しおーっ」はその条件を満たしていました。
――「しゃべって踊るパンパカパンツ」シリーズ第一弾には音声の文字表記がありません。次のシリーズから文字を表記したのは、スタンプの音声が再生されにくいからでしょうか?
べんぴ:そうです。LINEはほとんどの場合、マナーモード中に使われていますよね。だから音声が出なくても何を言っているのかわかるように文字を入れたんです。
――マナーモードでも、スタンプに文字が出ていれば音声のセリフがわかりますよね。
水戸:それもあるし、音声を聞き終わらなくても、動いている途中で言わんとすることをわからせる効果もありますよね。使う側にすると、相手が音声を聞けなかったせいで、それを送った意図を誤解されたくない。送られてきたスタンプをぱっと見ただけでも、ちゃんと意味がわかるほうがいいですよね。
――パンパカパンツのスタンプを見ていると、2割くらいどこで使ってよいのかわからないものが入っています。これ、意識的にバリエーションに加えていると思うのですが、いかがでしょうか?
べんぴ:いいところに気づきましたね(笑) そうです。チャレンジ枠を入れてるんですよ。
――このチャレンジ枠が新しいコミュニケーションを生んでいるんではないか、と思いました。
べんぴ:ほう。
――チャレンジ枠って、人間が絶対にしないような動きや表情をパンパカくんがするじゃないですか。このスタンプを使うことによって、微妙なニュアンスの感情や意図を伝えられるんじゃないかと思ったんです。たとえば、プーニャンがじっとこちらを見つめているスタンプ。これ、個人的にすっごく使えるんですよ。
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べんぴ:ありますね、無表情の。
――相手から一方的に連投でメッセージが送られてくるときってありますよね。そのときに、このスタンプをひとつ送るだけで、相手から「ごめん」と返事が来たりするんですよ。何も言ってないのに!
べんぴ:あはは! そりゃ「ごめん」ってなりますよ(笑) じーっとプーニャンに見つめられると謝りたくなる。
――これって、作り手が意図していないスタンプの使われ方だと思うんです。このスタンプの製作過程で相手の謝罪を促すスタンプにしようなんて思わないじゃないですか。
水戸:スタンプってのは相手からの「フリ」に対して送るものだから、相手の「フリ」によって同じスタンプでも意味が変わりますよね。
――スタンプ自体が意味を決めているというよりは、LINE上での会話のやりとり、文脈がスタンプの意味を決めているということですね。
水戸:ですね。こちらは使い方までは決められないですから。
インタビュー第二弾では、クリエイターズスタンプの登場が公式スタンプにもたらした影響、海外のLINEスタンプ市場での戦い方などについて紹介する。
<取材・文/日刊SPA!取材班>
パンパカパンツLINEスタンプ https://store.line.me/stickershop/search/ja?q=パンパカパンツ
パンパカパンツ公式HP http://www.panpaka.com/
パンパカパンツ公式Twitter @panpaka_pants
LINEスタンプ一人勝ち!静岡発ローカルからスタートした「パンパカパンツ」とは
何も参考にせずスタンプを作るしかなかった
パンパカパンツとドラえもん LINEスタンプの大きな違い
とにかく面白ければいい、かわいければいい
「このスタンプの動き、今度のアニメに使えるんじゃない?」
5歳児にアイディアのヒントあり
「パンツ的要素」が個性を生む
スタンプにはこんなセリフを喋らせろ
どこで使うかわからない「チャレンジ枠」の重要性
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