野球賭博、清原逮捕…巨人軍をむしばむ“闇”の正体
そうした失われたパズルのピースへの興味も刺激する一方、読売グループの体質そのものが一連の問題を深刻化させた原因だと、著者は指摘している。それは、“コンプライアンス至上主義”とも言うべき組織防衛のメソッド。“空白の一日”として有名な江川卓入団の際に編み出された論法だった。
野球協約の盲点を突き、<法律解釈を徹底的に駆使した理論武装によってすべてに対処する>(<>内は同書から引用、以下同)。江川獲得に成功したこの手法こそ、その後のあらゆる問題を封じ込める際のマニュアルとなったのだ。
そのようにして精鋭部隊“コンプラ軍団”を中心に、読売グループは数々のピンチを乗り越えてきた。
その最たる例が原前監督の一件。野球協約に触れたら原の退任は避けられない。そこで、恐喝した人物を<「元暴力団員だが、二十年以上前に足を洗った」として反社会的勢力ではないと>かばう戦法を取ったことで、スキャンダルによる監督解任という事態を回避したのだった。
しかし、巨人軍をめぐるスキャンダルは収まる気配すらなく、むしろ広がりを見せる一方だ。これは組織の保全ばかりを優先させる“その場しのぎ”の対応に限界が生じてきていることを示しているのではないだろうか。
<もしあの時、原監督が被害届を出していれば、Kを含む球界の闇はさらに炙り出されていただろう。また、野球賭博がこれほど深刻に蔓延することがなかったかもしれない。
だが、コンプラ軍団は球団の一時的なダメージを回復することに狂奔するあまり、底知れぬ闇の勢力まで守ってしまったのではないか。>
かつて渡辺恒雄氏は、自著『わが人生記』の中で、「オーナーは野球を知らなくてもいい。野球協約の解釈を知っていればいい」と語ったという。事実、読売巨人軍の繁栄は、そうした徹底的なリアリズムによってもたらされたものだ。
しかし、“策士策に溺れる”とのことわざもあるように、目下ジャイアンツを取り巻く情勢は芳しいとは言えそうにない。
西崎氏は、本書が「失敗学の材料になるに違いない」とあとがきに記している。となれば、あとはハードランディングかソフトランディングか。読売巨人軍は、どちらによる決着を望むのだろう?
<TEXT/石黒隆之>音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
あの時、原監督が辞めて被害届を出していれば…
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