更新日:2022年08月23日 11:35
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異端の映画監督・富田克也 タイ長期滞在&取材をもとに「娼婦・楽園・植民地」を描いた理由とは?

「『サウダーヂ』の上映会が久しぶりにあったんですけど、しみじみキツイ映画だなと」

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映画『バンコクナイツ』より

――構想に10年かけた本作は「娼婦・楽園・植民地」をキーワードに据えています。映画のタイトルとタニヤ通りで作品を撮るということは、最初の段階から決めていたそうですが、“植民地”というキーワードは実際に取材を重ねてシナリオを練っていく段階で生まれたのでしょうか。 富田:高度成長期に日系企業がタイに進出し、バンコクに住まう駐在員が増えたから現在のタニヤ通りが生まれました。安い労働力を求めて進出したということは、そこは植民地ということじゃないですか?  それが企業とか資本主義というシステムの中では認められて、正当化されているから堂々とできるわけだけど、結局は武力の下でやるか資本主義という名の下にやるかという違いなだけでしょう。それが日本とアジアの関係、さらに広げれば西欧とアジアの関係となっていて。僕の実感としては日本も含めて植民地という問題は歴史で全部繋がっている。

映画『バンコクナイツ』より

――しかし本作では初期作品から続くブルース的なテイストが、一見する限りそれほど前面に押し出されていないように感じました。決して“ない”わけではないんですが。 富田:え!?そうですか?僕たちからすると『バンコクナイツ』もものすごいブルースだと思ってるんですけど。実は先日フランスで『サウダーヂ』の上映会が久しぶりにあったんですけど、しみじみキツイ映画だなと。これ撮った時って、周りも含めて俺たち本当にキツかったんだなと痛感しました(笑)。

映画『サウダーヂ』より

そういう状況は(『サウダーヂ』で)描けたけどどうすればいいのかはわからなかった。そんな前作を踏まえて『バンコクナイツ』を制作していくんですが、現地で取材を重ねるうち、出稼ぎのためにバンコクに来ている女の子や三輪タクシーの運転手に、イサーン(タイ東北部)出身者が多いことに気づいて。  で、イサーン地方の音楽を聴いてみたら、「なんだこれヤバイ」と。イサーン音楽って全部ブルースなんですよ。それも抵抗の意志を非常に含んだ“レベル・ミュージック”と言い切っていい音楽だった。それで映画の中であれだけ使っていくことになるんです。

映画『バンコクナイツ』より

――前作でのヒップホップのように、本作はイサーン音楽からアプローチしていったわけですね。 富田:イサーン地方はラオス・カンボジア・タイに挟まれた地域で、昔から領有権争いがありました。一番古くはカンボジア、次にラオスに編入されて。現在はタイということになっているけど、当人たちは未だにタイ人だとどこかで思っていないんです。  “イサーン語”というのはラオス語に近く、タイの中心部から差別されるような地方の貧しい田舎の言葉なんです。そういう古い歴史もあって、彼らは自分たちのアイデンティティを保ち続けるための抵抗の文化を自然に育んできた。  さらに調べていくと、ベトナム戦争という深い傷があって、イサーンの森というのは抵抗勢力・共産ゲリラが立て篭もった場所でもあります。つまり、戦う強い意志が感じられる音楽と文化を持つ土地だとわかったんです。 ――本作の音楽も魅力的でした。特に印象的なアーティストはいましたか? 富田:本当に全員印象に残っています(笑)。喋っている言葉が徐々に“モーラム”(イサーン地方の伝統音楽)になっていく女性の占い師と主人公ラックのシーンがあります。そこで占い師役として出演してくれた、モーラムの人間国宝のアンカナーン・クンチャイさん、イサーンの森に立て篭もって戦った、プア・チーウィットという音楽ジャンルの生みの親でもあるスラチャイ・ジャンティマトンさん。この人は幽霊役で出てきます。そういうタイのレジェンドに出演をお願いして、本人たちに出て頂くことでイサーン音楽の持つ本質的な意味を暗示させたかったんです。
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「空族」の映画に登場人物が多い理由
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■作品情報
『バンコクナイツ』 http://www.bangkok-nites.asia/
(c)Bangkok Nites Partners 2016  2017年2月25日(土)テアトル新宿ほかロードショー開始。全国順次公開

■取材協力
「春夏秋冬」山梨県甲府市大里町3261コシイシテンポ3棟(『バンコクナイツ』にて富岡役を演じた空族俳優・村田進二氏が店長)
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