異端の映画監督・富田克也 タイ長期滞在&取材をもとに「娼婦・楽園・植民地」を描いた理由とは?
山梨県・甲府を舞台に土方やブラジル人労働者、ラッパーたちの物語から、文化摩擦や格差といった地方都市のリアルに迫った映画『サウダーヂ』から5年。大手資本の出資による映画ビジネスとは一線を画した映画制作集団“空族”の最新作『バンコクナイツ』(富田克也監督)が今月25日公開された。
「数年にわたって綿密な取材を行い、素人を役者として起用する」「配給宣伝までの全てを自ら行う」という、これまでのスタイルを引き継ぎつつ、本作は全編を海外(タイ・ラオス)で撮影。これまでほとんどカメラの入ったことのなかったバンコクの日本人向け歓楽街・タニヤ通りでの撮影も実現させた。
「日本に俺のいるとこなんてねえもん。エコノミック・ダウン。メルト・ダウン。エブリシング・ダウン」とは、劇中で監督自身が演じる主人公の一人・オザワがタニヤ通りの人気店でナンバー1嬢ラックに言い捨てる言葉だが、この主人公の二人を軸にここではないどこかを求め続ける人々の姿を描く本作。ロードムービー的な展開をみせるラブストーリーでありながら、世界に冠たるファッキングシティ・バンコクの歴史的背景も垣間見えるような群像劇でもあり、一筋縄の作品ではない。
日刊SPA!取材班は空族の原点とも言える山梨県甲府市で富田克也監督を直撃。その制作の裏側と思いに迫った。
――東南アジアの売春・麻薬・戦争を主題とする作品をライフワークにしている脚本家・相澤虎之助氏との共同脚本である『バンコクナイツ』。前作『サウダーヂ』公開後、監督自ら実際にタイで暮らし膨大な取材を積み重ねたと聞きました。182分という本編時間からも膨大な労力と時間をかけているのが伺えます。
富田監督(以下、富田):自分たちの頭の中だけで生み出して作るものだったら、時間も抑えてできるのかもしれないですけど、現地にいる中で新たな魅力的なエピソードが出てくると、どうしてもそれを映画の中に描きたくなるんです。しかも僕らの映画作りは5年に一本くらいのペース。それくらい時間をかけているとどうしても、「これも入れたい」「あれも入れたい」とエピソードを詰め込みたくなるんです。
――本作を深く理解するためにはストレートに主人公たちのプロットだけを追うだけではなく、物語の舞台であるタイの歴史的背景の知識もある程度必要かと思いました。
富田:前作『サウダーヂ』は、甲府に焦点を当てて撮ったことで、日本の地方都市全体、ひいては日本全体を見ることができたという自覚が生まれました。
『サウダーヂ』が公開された時期は311、福島の原発事故が起きたのですが、あの作品で地方都市の人々が苦しんでいる状況を描いたことで、なんでこんなに苦しいのか、どうしてこんな狂った国になっちゃっているのか、自分たちの中でも自覚的にならざるを得なくなったんです。
『バンコクナイツ』ではまさにそれを考えようと思ったわけです。日本が置かれている立場というものは、『サウダーヂ』では地方都市を見ることで日本全体をみようとしたように、今度は物差しをアジアに広げることで日本のこともわかってくるだろう、という勘が働いたんですね。
舞台は甲府からバンコクへ
「物差しをアジアに広げることで日本のこともわかってくるだろう」
■作品情報
『バンコクナイツ』 http://www.bangkok-nites.asia/
(c)Bangkok Nites Partners 2016 2017年2月25日(土)テアトル新宿ほかロードショー開始。全国順次公開
■取材協力
「春夏秋冬」山梨県甲府市大里町3261コシイシテンポ3棟(『バンコクナイツ』にて富岡役を演じた空族俳優・村田進二氏が店長)
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