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すべてが連なるプロレス・サーガ『1984年のUWF』――柳澤健×樋口毅宏

樋口:そう、だけどプロレスラーは。 柳澤:プロレスラーは全然違う。日本のプロレスラーの仕事は、観客を興奮させて、その観客の支持を自分に集めることによって、所属する団体の中でどれだけ上がっていくか。サラリーマン的な仕事なんです。その中でやってくわけだから、結局は観客というものがターゲット。対戦相手と試合してるわけじゃない。 樋口:プロレスラーで一番偉いのは、一番強いわけでなくお客さんを集めること、チケットを買わせることですからね。 柳澤:ですよね。だから棚橋弘至は選挙運動みたいなもんだという風に言っている。 樋口:さすが立命館。 柳澤:ああ、クレバーだなって本当に思った。そして、それを僕に言うというのが素晴らしい。わかってるんですよ。 樋口:わかってますね。 柳澤:さすがだな、と。棚橋があれだけのプロレスラーになったのは、彼自身がジャーナリストだからなんですよ。 樋口:前に『AERA』に載ってた棚橋さんの記事を読んだら、野球で全然チームプレーができなかったと書いてあって。わりと個人主義なんですよね。だから、武藤敬司が「プロレスはゴールのないマラソンだ」って言ったように、棚橋さんは「百年の一人の逸材」って言い続けることが大事。 柳澤:棚橋は2009年1月4日の東京ドームで武藤敬司と戦う前までは「太陽の天才児」だったんだけども。 樋口:そうでしたね。 柳澤:直前のイベントで「僕は武藤さんのような天才じゃありません。天才よりも上の、百年に一人の逸材です」と言い出すあたりが素晴らしい。 樋口:武藤の付き人をやってもの凄く影響を受けているけど、同じキャラ路線ではダメだと思ったんですよ。そこで同じことをやったら勝てない。 柳澤:今ね、棚橋と中邑の本を書いているんです。『ゴング』っていう雑誌があって、連載してたんだけどちょっと休刊しちゃって、復刊の目処がたたないので、しょうがないから書き下ろしてるんです。 樋口:棚橋と中邑のことですか? 柳澤:ええ。 樋口:かつて東京ドームのメインで、新日の未来を背負って戦った二人がね。 柳澤:総合格闘技が登場した後の、今の時代のプロレスを書くつもりです。猪木さん馬場さんの本を書いて、レスリングやUWFについて書いていると、「俺がやってることって結局、76年の猪木の前後に続く長い歴史連作長編を書いてるんだなあ」ってつくづく思います。『失われた時を求めて』みたいな感じ。 樋口:大河、サーガですね。 柳澤:1本の長い物語を書いているだけなのかな、と思うこともあります。それを書いて死ぬのかな、みたいなね(笑)。
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猪木たちが作った磁場に引き寄せられた次世代
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1984年のUWF

佐山聡、藤原喜明、前田日明、高田延彦。プロレスラーもファンも、プロレスが世間から八百長とみなされることへのコンプレックスを抱いていた―。UWFの全貌がついに明らかになる。

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