スポーツ

すべてが連なるプロレス・サーガ『1984年のUWF』――柳澤健×樋口毅宏

85年のクラッシュと84年のUWF

樋口:一方で『1984年のUWF』が、柳澤さんの最高傑作だと言ってる人もいますよね。 柳澤:水道橋博士とかね。 樋口:そうなんだ。柳澤さんが前田に便所に呼ばれて掌底をスウェーしたら僕も最高傑作だと思います(笑)。どういうところが良かったのだと思いますか。 柳澤:わからない。自分で一番気に入っているのは、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』なんですけどね。 樋口:そうですか。 柳澤:『85クラッシュ』には、女の子の気持ちというのが入っている。一方、『84UWF』には男の子の気持ちが入っている。だから、僕の中では少女マンガと少年マンガみたいなもので一対の存在なんです。 樋口:時代的にもね。 柳澤:80年代半ばの少女マンガがクラッシュであり、少年マンガがUWF。女の子の願望みたいなものが85年のクラッシュには詰まっていると思うし、84年のUWFには男の子の願望みたいなものが詰まっている。 樋口:なるほど。一年違いですね。 柳澤:そう。ほとんど同じ時期に、女の子も男の子もプロレスに熱狂していた。女の子は「戦う宝塚」に。男の子は「真剣勝負のプロレス」に。観客の心というものがどのように動いて、どんな気持ちでプロレスを見てたのかっていうのがこの2冊には入っている。だから両方ともとても気に入ってます。 樋口:「冷静に書く」。だけど、圧倒的な思い入れですね。 柳澤:うん、圧倒的な思い入れ。僕は去年『1974年のサマークリスマス』っていう、ラジオの深夜放送の本を書いたんです。その時もパーソナリティーの林美雄を書くだけだと面白くならない。だから、林美雄に映画の情報を提供したヘビーなリスナーたちの集団がいるんだけど。そのリスナーのグループにも相当取材をしました。彼らから見た林美雄はどうだったのとか、実際の関わりはどうだったのか、とか。ファンとの関わりとかの中から、何かを作っていくような人というのは、今でも結構いるんじゃないかなと思っています。 樋口:今でいうところのインタラクティブですね。 柳澤:そうそうそう。たとえば棚橋弘至はプロレスは選挙運動に似ていると言っていたけれども、棚橋がいろいろな情報を、twitterとかSNSで発信したりとかしているのは、選挙権を持つ有権者であるファンが、どのような気持ちで自分を応援してくれているかを探っている面もある。彼は相当クレバーだから、それぞれの会場のお客さんを沸かせるために今何をしなきゃいけないかを常に考えてる。会場1日1日行く場所で違う。必ずウケる鉄板のムーブなど存在しない。そんなライブ感覚がプロレスをやってて面白いところだと言っていました。 樋口:時代の変遷がありますね。同時代性が本当にあると思います。プロレスもロックも色々と。 柳澤:やっぱり表現だからね。同じような時代の空気に乗っかってくるんでしょうね、きっとね。 樋口:時代の空気に乗っかるのか、時代の空気を吸い込むのか。
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柳澤さんに次に書いてほしいもの
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1984年のUWF

佐山聡、藤原喜明、前田日明、高田延彦。プロレスラーもファンも、プロレスが世間から八百長とみなされることへのコンプレックスを抱いていた―。UWFの全貌がついに明らかになる。

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