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M-1王者のネタがサンドウィッチマン以後、印象に残らない問題――ユウキロック×中川家

「若手に対する苦言」の真意とは

ユウキ:そういえば、中川家がいまの若手に対して苦言を呈しているみたいな記事をよく見かけるんやけど。その真意はなんなの。昔と比べて違いを感じる? 礼ニ:たとえば、いまの子たちは営業大好きやで。俺らのときは嫌いやったやん。まあ、元々ちゃんとギャラが貰えないからってのもあったけど。 ユウキロックと中川家17ユウキ:ちゃうねんちゃうねん。じつは俺らは、そうは言うても恵まれてたんよ。多少は舞台でも貰えてたやん。いまの子たちって、そもそも仕事がなくて貰えてないんよ。だから、営業がデカい。 剛:そうなん? ユウキ:たとえば、吉本とファミリーマートさんで一緒にやっている活動の一環で、「ファミマ the よしもと」ってのがあって。歌舞伎町のファミマ(新宿靖国通り店)で、本棚の横に小さなスペースを作って、そこで毎日2組がネタをやりますと。ある若手が、「なんやねん、こんなエロ本の横でネタさせやがって」とブチ切れていたんだけど、2か月後に振り込まれたギャラを見て「ココが俺のホームや」と言い出した(笑)。 ユウキロックと中川家18剛:それだけギャラが違うんや! いま、いろんな若手がやっとるもんな。 ユウキ:お金がないねん。ほかの事務所のほうもやっぱり出番がない、それでも場数を踏まないといけない。せやから自分でお金を出してフリーライブをやって腕を磨くという。吉本とほかの事務所、どっちがええのかなぁ。 剛:そのへん難しいところだよな。 ユウキ:いろんな事務所に講師として行くようになってから気付いたのが、ほかの事務所だと1年後に所属できるかできないか、なのよ。契約が切られたらフリーになる。吉本の場合は、とりあえず全員所属させる。とはいえ、ほかの事務所なら自分のところのライブもやって、フリーのライブも出れるからチャンスが多い。一方で、吉本の場合はシバリが厳しいから、ほかのライブには出れない。にも関わらず、月に1回しかやれなかったり……。 礼ニ:迷うやろなぁ。 ユウキ:そういう事情もあって、若手で喋りとか腕のある子が少なくなったと感じる。 剛:やっぱり、見てへんからちゃうの。生のお笑いを。俺らのときはテレビでも下手な人から上手い人まで見てきた。だから、小学校ぐらいのときから“判断”してた。この人は面白いからマネしよう、これはウケないからヤメておこう、とか。この世界に入ってからも、テレビに出ている師匠と出てない師匠、なにが違うのか。判断材料がいくらでもあったから。そういった意味では、吉本は所属人数が多い分、恵まれているとも言えるよね。 ユウキ:俺らは大阪という特殊な土地で育ったこともあるよね。テレビも番組と番組の間に漫才がやっていたからね。 礼ニ:だれが10分ぐらいのブレイクタイムに漫才見たいねん(笑)。 ユウキ:まあ、いまなんかでもお笑いを見たいと思えばいくらでも見れる環境があるわけやん。 剛:画面上で良い部分しか見せていないからじゃないかな。 礼ニ:俺らが昔からお笑い好きだったこともあるけど、大阪で営業とかも見に行ってたからな。そこで舞台裏をちょっとのぞいてみると、ウケなかった芸人の切ない肩とか、人を殺しそうな目とか……。当時、子どもながらに思うことがあった。 ユウキ:たしかに、そういうのいっぱい見てきたな……。 礼ニ:もしも俺が若手でいまみたいな時代だったら、お笑いなんか絶対やらへん(笑)。 ユウキ:じつは去年、『芸人迷子』って本を書いたり、いろいろと自分で何かせなアカンと考えていたとき、「M-1」に賭ける芸人のドキュメンタリーを作ろうかとも思ったのよ。でもヤメた。なぜかといえば、俺らが漫才をやっていたときって、もっとやっていたなって。ネタさえ面白ければテレビに出れると思っていたから。とにかくネタを磨くために、お笑いに対してバカでピュアに頑張っていた。一方で、いまの若い子たちって、テレビの環境としてそうではないから、果たしてネタを磨いたところで……という気持ちが心のどこかにあるのよ。 礼ニ:コンビ組んでるのにネタやらない芸人が増えたこともあるんちゃう。名前は言わへんけど。「なんでやらへんの?」って聞いても「ネタ作ってないから」って、そりゃ自分の責任やろ(笑)。 ユウキ:それこそ、ほかの事務所で講師をやるとき、じつは吉本とやりかたを変えているのよ。なんでかって言うと、劇場でメシ食えへんから。劇場でメシ食えるのって吉本ぐらいじゃないかな。 礼ニ:まあでも、吉本でも一部ちゃうか。 ユウキ:当然、一部なんだけど、たとえばテレビに出て少し有名になる。その後、旬が過ぎてしまったときに吉本なら劇場の数がたくさんあるから、なんとか食っていけると思うのよ。実際にそういう人は多いでしょ。それが、ほかの事務所にはおらんのよ。そう考えると、ネタに関することに助言を求められたときに、一部分を切り取ったりしてテレビサイズにするにはどうしたらいいのかってことまで言う。実際にいまの若い子たちはオーディションに行ってネタ見せをしたあとに、「他にはどんなことができる?」「何か詳しいことはないのか?」ってことをメッチャ聞かれるみたいで辟易してるのよ。家電芸人とか“なんとか芸人”みたいなのが流行っていたから。だから、ネタが疎かになったり全体的なレベルの低下にもつながっているんじゃないかな。もっとテレビでネタ番組が増えないと。 ユウキロックと中川家19
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「M-1」の審査員に問われる“責任を負う覚悟”
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●『芸人迷子』会議〜ユウキロックに聞いてみよう〜
日時:4月18日(火)OPEN18:30〜、START19:30〜
場所:阿佐ヶ谷ロフトA
出演:ユウキロック、錦鯉、真夜中クラシック、シティホテル3号室、矢野号、ヤーレンズほか
『芸人迷子』の迫力に魅了されたお笑い芸人たちが阿佐ヶ谷集結! 公開ネタ見せも実施予定。詳細はコチラ

芸人迷子

島田紳助、松本人志、千原ジュニア、中川家、ケンドーコバヤシ、ブラックマヨネーズ……笑いの傑物たちとの日々の中で出会った「面白さ」と「悲しさ」を綴った入魂の迷走録。

⇒試し読みも出来る! ユウキロック著『芸人迷子』特設サイト

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