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誰も見ようとしない“原発都市”の6年間を定点観測――写真が伝える福島の今

 東日本大震災から6年の月日が経過。3.11が過ぎ去り、時間とともに報道も減り、人々の記憶から福島被災地の現況認識が薄まりつつもある。また、原発問題は推進・反対の両者が行う難解な議論が中心となっており、普段何気なくコンセントのプラグを抜き差ししている大多数の人々にとっては縁遠い存在になっているのではないか……。  一番の恩恵を被っていた東京都心および近隣の繁華街は不夜城のごとく煌々と輝き、わずか250キロ北に存在する灯りを失った町の存在など、気にかけるきっかけもない。  こうした現状に警鐘を鳴らすのは中筋純氏。国際評価尺度レベル7の原発事故が起きたチェルノブイリ福島、その両方を10年にわたって撮り続けている写真家だ。  中筋氏によると「原発事故がもたらす凄惨は、人間ひとりひとりの小さな暮らしに直結する身近な話」なのだという。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1333650
発電所

発電所(写真上:福島、下:チェルノブイリ)

「福島で起きていることは自分に起きていること」

「福島の浜通りには山があり、海があり、田畠があり、個人商店が軒を連ねる街があり、人々の“普通の暮らし”がありました。原発事故は、それらを一瞬にして奪ってしまったのです」  中筋氏は、ウクライナ(旧ソビエト連邦)のチェルノブイリ、震災後は福島浜通りの被災区域に通い、移り変わる現地の風景を記録してきた。  そもそも、その動機とはなんだったのだろう。中筋氏は約10年前、チェルノブイリ原発に産業遺構の撮影で訪れたのだという。その跡地で感じたものとは……。人類が築き上げてきた文明そのものを問う壮大なスケール感だった。
プリピァチ

原発都市プリピァチ市に放置された観覧車 2007_11

「無人と化して原野に放置された原発都市プリピァチ市。高層マンション屋上から見た俯瞰図からは、我々が追い求めた繁栄という名の無限的利益追求、いわば“近代”に対するアンチテーゼが浮かび上がる。一方で、いまだ立ち入りが許されない半径30キロの地にて、法を犯しつつも四季の移り変わりに即した中世的身土不二の暮らしを続けている高齢者の姿になぜか一縷の希望と豊かさの根源を感じたものです。ユートピア追求のシンボルだった高層マンションの残骸と、牧歌的な小さな暮らし、そしてその中央に横たわる31年経った今でも処理方法に具体的道筋が見えてこないチェルノブイリ原発4号機を覆う巨大なシェルター。チェルノブイリ立ち入り禁止区域は、我々の築いてきた“近代”が作り出した不思議な相関図でもあり、人類の文明の存在を根源的に問う教示的光景でもあります」
シェルター

チェルノブイリのシェルター

「チェルノブイリ取材を開始して4年後の春。それは奇しくもチェルノブイリ事故25年目の春でした。はるか8000キロも離れた異国の地の災禍が望まずして日本の福島でも起きることになりました。無残な姿を晒す原子炉建屋が発する目に見えぬ放射能雲の下で、10数万人もの人々が数日分の荷物を携えて故郷を追われ流浪の民となった。25年前のチェルノブイリの古い映像と見事に重なったのは言うまでもありません」  こうしてチェルノブイリと福島に通い続けた中筋氏は、原発事故の被害に遭った地域の風景の推移から共通点をあぶり出し、“普通の人の普通の暮らし”が一瞬でなくなってしまう原発事故の恐ろしさを伝え、ある意味単純なイメージから私たちに「当事者性」を喚起しようと考えた。
双葉町

双葉町のガソリンスタンド 2015_9

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原発事故は時間を見つめること
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●『The Silent Views. 流転 福島&チェルノブイリ』

【目黒展】
日時:5月31日(水)〜6月4日(日)10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
場所:目黒区美術館・区民ギャラリー(東京都目黒区目黒2-4-36)
料金:500円

【練馬展】
日時:7月5日(水)〜7月9日(日)10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
場所:練馬区立美術館・企画展示室(東京都練馬区貫井1-36−16)
料金:無料

※両会場ともに最終日は16:00まで
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