誰も見ようとしない“原発都市”の6年間を定点観測――写真が伝える福島の今
これまでに中筋氏が撮影した約140点の写真や動画を展示する写真展『The Silent Views. 流転 福島&チェルノブイリ』。5月31日(水)~6月4日(日)の期間、東京都内の目黒区美術館・区民ギャラリーにて開催される。同展にあたり、中筋氏はこのように語る。
「原発事故の被害を時間軸で捉えるという試みです。原発事故はすべての人の営みを強制終了させ、その後には独特の時間が流れるのではないか。2007年にチェルノブイリを訪問してそう感じました。そして2011年、福島で原発事故が発生。果たして、どのような時間が流れるのか。流れゆく時間を写真で可視化して、“原発事故は時間を見つめることである”と感じていただきたい」
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同展は昨年の2月から始まり、全国14都市を巡回してきた。東京で開催されるのは1年ぶり以上となる。これまで写真展に訪れた人たちの感想で印象に残っていることを聞いてみた。
「報道で伝えられている話と現実の光景のギャップがあまりにも激しく、今まで真面目に考えてこなかったことをしきりに悔やんでいる方がおられました。また、福島とは遠く離れているのだけれど、『他人事ではない』とおっしゃられる方が多く、それはある意味、写真展の大きなメッセージでもあります」
展示には風景のほか、その場で数年の時が経ち、朽ち果ててしまった様々なモノが見受けられる。なかには、農協直売所で5年9か月も放置された大根なども……。
「これを見た時は即身仏かと思いました。朽ちた大根から浜通りの田園の姿、丹精している農家さんの姿、また豊穣の土地があったことがにじみ出てきます。プライスタグから生産者の名前を調べて会いに行ってきました。原発から1キロの場所でご夫婦で農業やられていた方です。江戸時代からの農家さん。写真をお渡ししたところ5分ほどじーっと眺めていらっしゃいました。葉タバコの栽培では賞をもらうほどの篤農家だったそうです」
そこから中筋氏が思うこととは……。
「とかく原発事故処理では賠償が金額で明示しやすいものを軸に行われていますが、その土地が刻んできた歴史、記憶、畑の土など経済的に評価がしづらいものは無価値として扱われています。それは我々が近代化の過程で忘却した一番大切なものなのではないかと問いかけたいですね」
中筋氏は現在も1か月に1度は福島に通い、定点観測を続けているのだという。福島では、3月に避難指示解除が大々的に行われた。実際のところ、現地の様子はどうなのだろうか。
「即帰還する人はまばらです。帰りたいが帰れない状況が解除後も続いています。帰還した人は6年ぶりの故郷の暮らしがとてもうれしい反面、震災以前とあまりにも違う街の様子に落胆されている方もいらっしゃいます」
では、私たちは福島とチェルノブイリの経験を経て、今後どのような行動をとるべきなのか。高度文明の挫折により振り撒かれた“放射能という見えない災い”。中筋氏は、「我々の想像力が試されている」のだという。
「20世紀型の発展、大量生産&消費型の文明進化への執着を見直して、循環・共生型の文明発展はできないものか。生命体が生命体である所以は、自分たちのコピーを残し、彼らが生きていけるような環境を残すことにある。アイヌの人たちは降りかかった災いを1万年語り継げと言われているそうです。チェルノブイリと福島事故を我々はどう総括し後世に語り継いでいけるのか。それは我々の想像力にかかっているような気がします」
<取材・文/藤井敦年>明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
福島とチェルノブイリから見える今後のヒントとは
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●『The Silent Views. 流転 福島&チェルノブイリ』
【目黒展】
日時:5月31日(水)〜6月4日(日)10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
場所:目黒区美術館・区民ギャラリー(東京都目黒区目黒2-4-36)
料金:500円
【練馬展】
日時:7月5日(水)〜7月9日(日)10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
場所:練馬区立美術館・企画展示室(東京都練馬区貫井1-36−16)
料金:無料
※両会場ともに最終日は16:00まで
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