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テリーが教えてくれた“バット・ダート”の奥義――フミ斎藤のプロレス読本#078【テリー・ファンク編エピソード3】

 自分の順番が来るとそれぞれまじめな顔で勝負に挑み、ほかのみんなはそれをみながら腹を抱えて大笑いした。そんなことが30分くらいつづいた。テリーは満足げだった。 「毎日、家で練習しておけば、そのへんの酒場でいいマネーが稼げるよ」  ほんとうに家でこんなことを練習している人たちがこの世にいるのだろか? 「酒場に入っていってな、チャレンジャーをつのるのさ。ローンレンジャーみたいなもんさ。だれか、このオレとバット・ダートで勝負しないか、ってね」  薄暗い酒場のドアを開けると、テンガロンハットをかぶった男がだらしなくカウンターに寄りかかって昼間からバーボンかなにかをストレートであおっている……。タフガイにはタフガイの匂いがなんとなくわかる。  テリーは、かぶっていたテンガロンハットのつばを軽く握ってその男に目であいさつをし、こんなセリフをつぶやくのだ。 「お若けえの、ひとつこのオレとバット・ダートで勝負してはくれまいか」  テキサンは、テキサンではないなにかになろうなんて考えない。テキサスで生まれ、テキサスで育った人間は、あんたたちのやり方はどうか知らんが、テキサスではこうするんだ、という厳格なアテテュード(心がまえ、姿勢、態度)を持ちつづける。  テンガロンハットもカウボーイ・ブーツも、ブーツカットのデニムもネルシャツも、手もふくし鼻もかむバンダナも、地平線のかなたに現れる“ゆらゆら”も全部、テキサンのものである。 「ディック・マードックが発明したんだ、バット・ダートは」  いわれてみれば、いかにもマードックが考えつきそうなゲームなのだ。テリーもマードックもテキサスから離れては生きていけない。広い土地があって、馬や牛がいくらでもいるようなところじゃないと生活するにはぐあいがよくない。
斎藤文彦

斎藤文彦

 頑固者のカウボーイは、1年のカレンダーを体でおぼえている。いいときも悪いときもあるけれど、それでも収穫の時期はやって来る。  テリーの体がレスリングを忘れることはない。(つづく) ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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⇒連載第1話はコチラ

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