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フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<あとがきEpilogue>

フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<あとがきEpilogue>

連載コラム『フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100』あとがきEpilogue。全100話、ご愛読ありがとうございました(Illustration By 梶山Kazzy義博)

エピローグepilogue

 “伝説の男たち”との闘いだった。ぼくは“20世紀の鉄人”ルー・テーズや“神様”カール・ゴッチの全盛期を知らない。ぼくが子どものころに観たテーズさんやゴッチさんは、もうすでにおじいちゃんだった。  ぼくの記憶のなかの映像では“アラビアの怪人”ザ・シークはいつもよろよろしていて、“白覆面の魔王”ザ・デストロイヤーは前歯が抜けていた。  この連載コラムで紹介した“伝説の男たち”は、第二次世界大戦後のアメリカのプロレス史を彩った100人(100組)のスーパースターたちだ。  戦後から21世紀のプロローグあたりまで、というカテゴリーだったから、今回の“レジェンド100”にはジョン・シーナも、ブロック・レスナーも、ローマン・レインズも登場しなかった。この3人は2010年代からのプロレス史のキーパーソンズである。  日本とアメリカの関係でいうと、アメリカのプロレス史とそこから派生した日本のプロレス史は年表上ではつねに重なっている。  戦後、プロレスがアメリカから初めて日本にやって来てから――1951年(昭和26年)にボビー・ブランズ一行が進駐軍慰問興行のために来日し、元大相撲・関脇の力道山がプロレスラーとしてデビューした――今日までで約70年の日米プロレス史の歩みがある。  アメリカのプロレス史でもっとも重要な登場人物と思われる100人(100組)のアメリカ人プロレスラーたちは、さまざまな形で日本のプロレス史にも深くかかわってきた。  数えてみたら、全100話の連載コラムに出てきた100組(95人+5ユニット=108人)のうち、51人がもうこの世にはいない。  テーズさんのように80代なかばまで元気だったレジェンドもいるし、若くして天国へ旅立ってしまった男たちもいる。  ぼくは――そういうご縁があって――19歳のときにプロレスの記事を書きはじめた。初めてリングサイドで写真を撮った試合はバーン・ガニア対ニック・ボックウインクルのAWAタイトルマッチで、生まれて初めてインタビュー取材をさせてもらった相手はジェシー・ベンチュラだった。1981年のことだ。  試合会場に行くと、ベンチュラはいつも「おー、元気かWhat’s Up?」とフレンドリーに話しかけてくれた。単語と単語のあいだにはいくつものファッキンがはさまっていて、ふたことめにはファッキン、ファッキンとくり返すので、ぼくは勝手にベンチュラのことを“ファッキンさん”と呼んでいた。  プロレスをやめた“ファッキンさん”はものすごく出世して、映画俳優になって、ミネソタ州知事になって、政治評論家になって、環境保護派の陰謀論者になった。  あっというまとはいわないけれど、ぼくもトシを食って“アラ還オヤヂ”と呼ばれるようになった。ほかの仕事をしたことがないから、かんたんにいえばプロレスしか知らない“プロレスばか”なのである。  アメリカ人レスラーにとって、ぼくはジャパニーズのマガジン・ガイだから、インタビューをさせてほしいと頼むと、わりとかんたんにOKしてくれた。  この連載に登場した“レジェンド100”のうち、88人にじっさいに会うことができた。ぼくが目撃したハルク・ホーガンはやっぱりハルク・ホーガンで、リック・フレアーはほんとうにリック・フレアーっぽかった。  ゴッチさんの家のガレージには変てこな練習器具がたくさん置いてあって、“レスリングの神様”はほんとうに朝5時に起きてヒンズー・スクワットをしていた。  テリー・ファンクは地平線の果てまで自分の土地がつづく広大な牧場で暮らしていた。  スタン・ハンセンは牛乳ビンの底みたいなメガネをかけていて、トーキョー・ガイジンだったころのベイダーとバンバン・ビガロはいつもケンカばかりしていた。  川崎球場で“デスマッチ王”になった日、ミック・フォーリーは試合で着ていたカクタス・ジャックのびしょびしょに濡れたTシャツをプレゼントしてくれた。  “人間風車”ビル・ロビンソン先生は「ロープワークは有効な武器」という理論を熱く語った。
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WWEスーパースターズは現在進行形のプロレス史にもリンク
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