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名古屋メシ・台湾まぜそばは台湾ラーメンの失敗から偶然生まれた一杯だった

台湾まぜそば誕生は台湾ラーメンの失敗から

「最初にオープンしたとき、塩(700円)と醤油(700円)しかなかったんですよ。どっちも自信作だったんですが、宣伝広告費がないから当然客は来ない。ところが世の中には“ラーオタ”なる人たちがいて、新しい店が出来た情報が入ると、こっそり食べに来るんですね。そういう人たちが『オタクの店はおいしいのにヒマなんだな』なんて言って帰っていくんです。そして、自分のブログにアップする。そうすると、また新しい“ラーオタ”の人たちが来る。だから最初の頃、うちは“ラーオタの巣”だったんですよ。それがメディアの目に留まって、ラーメン専門誌の人が取材に来てくれた。テレビが来るようになったのはそれからですね」  もちろん他店から見ると、「出る杭」だったので中傷もひどかった。それでも新山さんはめげなかった。ところが、開店して1年もしないうちに出演した中京テレビの『2009夏ラーメン王決定戦』という番組であっさり初代チャンピオンに選ばれてしまう。ちなみに中京テレビの『下半期総決算!大反響の店2009』という番組でも第1位になった。これがブレイクのきっかけだった。 「それまではストイックに塩と醤油だけで勝負してたんですが、もっと店を繁盛させたいと思って台湾ラーメンに挑戦したら失敗しまして。具材の台湾ミンチが当時の汁に全く合わなかったんですね。ガッカリして捨てようとしたら、当時のアルバイトの一人に『まかないで食べてもいいですか。茹で上げた麺にかけて食べたらどうでしょう?』と言われ、それが実にうまかった。これなら、今までうちに来ていなかったお客さんを取り込むことも出来るんじゃないかと思いました」  それからまた新山さんの寝食を忘れる“化学実験”が始まった。豚肉と牛肉の割合を考えたり、どこの部位のミンチをどれぐらい使うか考えたり…。特に脂身は噛んだ時にジュッとした味わいが出るので、その配合も当然実験を繰り返すことになった。
麺屋はなび

すりこぎで麺をゴリゴリすると、適度な粘りが出る。これが麺屋はなびの旨さの秘密だ

「これは最近気付いたんですが、麺を茹で上げた後に湯切りしないで、スリコギでグリグリとやって麺を傷つけると、糊みたいな粘りができるでしょう。この糊の甘味が醤油や唐辛子などの辛さの角を取り、甘味を重ねることで奥行きが出るんです。刺激的な味の中に糊の甘味が入ることで、辛いだけじゃなく奥行きができて、深みのある台湾まぜそばに仕上がったんです。これを発見した時が一番すごかったかな(笑)」  台湾まぜそばは肉と魚のコクと旨味が合わさり、ニラとネギとニンニクの香りが口いっぱいに広がり、ほどよく茹で上がった太麺にピリ辛ミンチがまとわりつき、絶妙なハーモニーを奏でる。2013年に開かれた『新なごやめし総選挙』では準グランプリを受賞している。 「全部が一つになっておいしいのが台湾まぜそばです。すべてが脇役になって、主役を支えている感じです」

台湾まぜそばの未来

 はなびは現在直営6店とフランチャイズの約20店がある。東海地方だけでなく、東京、大阪、鹿児島、マレーシアのクアラルンプール、韓国のソウルなどにも進出した。直営店を束ねる(株)新山オールスターズは年商4億円だ。 「目標を設定すると、息切れするからダメ。だんだんと階段を上がっていく状態がいい。台湾まぜそばの可能性ってのはそこにあると思いますよ。一緒に頑張ってくれたスタッフたちがみんな社長になればいい。僕は頭の中でレシピが作れるんです。僕が作ったものをグラム数値化してレシピを作ればいい。僕がいなくても売り上げが落ちない状態になればいいんです」    はなび各店は大通りから少し離れた場所にある店舗が多い。 「キョロキョロと探して、『おお、あった!』と言われるような場所に作りたかった。自分自身がワクワクしたかった。暗いところに明かりが見えて、ご近所さんに愛されるような店にしたかった。行列が出来始めた頃、順列を整理する区切りを作るとき『こんなもん、客が来なかったら、みっともないだけやんか!』って思ったんですけど、皆さん、きちんと待ってて下さいますので(笑)。例えば韓国人は並ばないと言われていたんですが、マイナス20度の外気でも行列を作ってくれますからね。ソウル店は1日250人ぐらい入ります」  2014年春には、これまでのカレーの常識を覆す『元祖台湾カレー』の店をオープンさせた。また、新事業としてカレーうどん専門店を計画中である。なお止まることを考えない若武者のような社長は、愛車に乗って次の仕事場へと走り去って行った。 取材・文・構成/響波速人 長谷川大祐(本誌)
日刊SPA!編集。SPA!本誌では谷繁元信氏が中日ドラゴンズ監督時代に連載した『俺の職場に天才はいらない』、サッカー小野伸二氏の連載『小野伸二40歳「好きなことで生きてきた~信念のつくり方~』、大谷翔平選手初の書籍となった『大谷翔平二刀流 その軌跡と挑戦』など数多くのスポーツ選手の取材や記事を担当。他にもグルメ、公営競技の記事を取材、担当している
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