相撲取りが最強のグルメである理由――琴剣淳弥×能町みね子対談
力士たちの食事情をリアルにつづった漫画&エッセイ『相撲めし』を上梓した相撲漫画家の琴剣淳弥氏。自身も元力士であり、誰よりも相撲界のことを知る人物でもある。そんな琴剣氏と、大相撲の大ファンであり、NHKで番組コーナーを持つ能町みね子氏が、相撲めしについて語った!
琴剣:能町さんにはイチ早く私の著書『相撲めし』を読んでいただきました。どうでしたか?
能町:どのエピソードも興味深くて、力士が食べるというだけで、おいしそうに見えます。私もいろんな人から聞いたおいしいお店を携帯にメモして「行きたいお店リスト」を作っているんですが、そんな話を浦風親方(元・敷島)にしたところ、「お前甘いよ、俺の携帯を見ろ」って、地方によって行きたいお店を分けていてすさまじい量のメモでした。とにかく食にかける探究心がすごいと感心しました。他の力士もそうなんでしょうね。
琴剣:本当にハンパないですよ。今回、現役力士一人ひとりに取材をしましたが、改めて力士は本当にグルメなんだなぁと思いました。部屋のちゃんこはおいしいし、巡業先でおいしいものを食べたり、お店側もサービスしちゃったり。これでグルメにならないわけがないって思いますよ。
能町:それも、幅広く行ってらっしゃる。たとえば本に書いてある松鳳山関が行く「火鍋みやま」や、石浦関の行く「caféのらくろ」は噂には聞いていました。おいしいんでしょうね。
琴剣:「のらくろ」は宮城野部屋の近くにあって、マスターも相撲が大好き。おすもうさんが来ると、すごい量のパスタを出したりする。さらに、若い力士がコーラを頼むと、1.5リットルのペットボトルが出されるサービスっぷりですよ(笑)。
能町:食べっぷりも気持ちがいいですよね。私は、琴剣さんに比べたらそんなにお店に行ってるわけじゃないし、力士の方とご一緒することも少ないけども、それでも美味しいお店をよくご存じだというのは実感しています。浦風親方に誘っていただくときは、メニューまで完全にお任せです。「何を食べたい?」って聞かれないのってすごく楽だし、黙っていてもおいしい料理が注文されているので助かっています(笑)。
琴剣:浦風親方が、昔、貴乃花に勝った前日に行った大阪の「テッチャン鍋 金太郎」というホルモン屋さんも、今では力士の間でゲン担ぎのお店ですからね。浦風親方もすごいけど、二子山親方(元・雅山)も現役時代からいろんな肉のお店を渡り歩き、「130店舗は行った」って言っていましたからね! 実際、九州のステーキ屋さん「牛王」にご一緒したとき、ヒレステーキのあまりのうまさにびっくりしました!
能町:話は変わりますが、元力士がひらいたお店もおいしいですよね。元幕内・若孜さんの「ジンギスカンゆきだるま」も有名で、そこは行きましたが本当においしかった。
琴剣:あそこは本当に絶品です。肉は厚切りで臭みもなくジューシー! 〆のつけ麺も最高で、私も大好きなんです。
能町:自分で開業したわけではなく、もともとあったお店を引き継いだらしいですよね。現役時代に「ゆきだるま」で食べて感動して、「これで勝負したい」って言って引退後、お店を任されたって聞きました。
琴剣:そうなんですよね。第二の人生が飲食店なんて力士は本当に多い。それこれ20年くらい前までは、次の就職先と言えばちゃんこ鍋のお店だった。でも、最近は肉、ラーメン屋と幅広くなってきています。
能町:そういえば、ラーメンといえば、上野にある「さんじ」も行きたいお店リストに入っているんです。
琴剣:そこは絶対行くべきお店ですよ! そこのクレイジークラブという名前の蟹のラーメンが素晴らしいです! 光風という四股名で相撲をしていた森下さんは、引退後、ちゃんこ屋をヨーロッパで開店しようと渡欧したんだけど、現地で食べたラーメンのうまさに衝撃を受けたそうで、その味を日本に逆輸入しちゃったというわけ(笑)。
能町:そう考えると、みんなちゃんと考えてお店を出して成功されているんですね!
琴剣:奈良にある「麺場 力皇」は力士とレスラーをやっていた力皇さんのお店だし、横浜の鶴見にある「鶴嶺峰」(力士名同じ)は、「大勝軒」の山岸さんのお弟子さんだったりするんですよ。どこも行列をつくる繁盛店ですよ!
能町:それだけ食が特別な存在ってことですよね。だって、プロ野球選手やサッカー選手でグルメの人がいたとしても、ここまで食は広がらないと思う。
琴剣:全身を使うし、体のつくりによって勝負の差が出てくるから、食べることってそれだけ大事なんだと思います。いい加減な食生活もたまにはいいけど、コンビニ弁当が続く巡業中は体の調子が悪くなるから、必死でおいしいお店を探すんだそうです。全国各地の名店に詳しくなるはずですね。
元力士がやっているお店はどこも名店!
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