更新日:2022年12月30日 10:47
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特技はマネロンだった!? 故・金正男との「忘れがたい思い出」

国際金融の舞台で金正男の名前は知れ渡っていた

「こんばんは」  彼は笑顔で答えた。一緒に写真を撮ってもらえないか、と私の友人が頼むと、食事をご馳走するから勘弁してくれ、と大げさなジェスチャーで手を振る。その顔がとてもチャーミングだったのを鮮明に覚えている。  金正男と一緒にいた男たちは、顔つきから朝鮮民族だと思われた。ヴァンヴィエンには北朝鮮系の飲食店もあるので不思議ではない。  彼らは一時間ほどで店を後にしたが、食事の間、金正男は終始和やかだった。アメリカや中国の政治体制について、自分の見解を解説してくれた。彼は国際感覚に優れており、とても知的でフレンドリーな男だった。  金正男がヨーロッパとアジアの国際金融舞台で有名なことは、あまり知られていない。マカオとシンガポールで、カジノのハイローラー口座を使ったマネロンでも、相当な額をこなしていたはずだ。スイスの銀行にも強いコネクションを持ち、トラスト(信託)やファンド、企業向けファイナンスも得意だったと思う。  二度目に彼と会ったのはシンガポールのマリーナベイサンズ。偶然、私の知人が彼と一緒にビジネスをしていた。そのときは、北京からシンガポールへの資金移動を計画していたが、他国の監視が厳しくて難航していると嘆いていた。  金正男が暗殺された国がマレーシアだったのは、彼の活動を考えれば不自然ではない。なぜなら、マレーシアには、彼と関わりのあるカジノ運営会社ゲンティン・グループがあるし、北朝鮮大使館もある。そのため、工作員も活動しやすかったはずだ。  それに、マカオやシンガポールではボディーガードによる警備も厳重で、何より土地が狭くて暗殺の実行が難しい。  マレーシア北部の木材関連企業には北朝鮮人労働者が多く、大きなコミュニティもある。両国の関係を考えても、暗殺の舞台としては好都合な国に違いない。  あの愛嬌ある笑顔が、二度と見られないのはとても悲しい。 【猫組長】 兵庫県神戸市生まれ。元山口組系二次団体幹部。若くしてヤクザの世界に身を投じ、仕手戦やインサイダー取引を経験。グレーゾーンのファイナンスやマネーロンダリングを得意とする国際的な経済ヤクザとして暗躍、数百億円を稼ぎ出す。ヤクザ引退後は作家転身を果たし、「週刊SPA!」のコラムを筆頭に健筆をふるう。最新刊『猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言
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猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言

週刊SPA!誌上で始まった「ネコノミクス宣言」を大幅に加筆・修正、連載開始から2年の時を経て単行本として出版されることとなった渾身の意欲作。相方を務める漫画家・西原理恵子氏による描きおろし漫画も収録、300ページ近いボリュームでお届けする。

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