更新日:2018年07月10日 16:56
エンタメ

「今、最もチケットの取れない講談師」神田松之丞が落語ではなく講談の道を選んだ理由

講談師/神田松之丞「今、最もチケットの取れない講談師」と呼び声も高い神田松之丞の周辺がにわかに騒がしくなってきた。『ENGEIグランドスラム』や『ダウンタウンなう』など人気番組への出演で世間の知名度が急上昇。アニメ『ひそねとまそたん』『未来のミライ』では声優に挑戦し、今月20日には著書『神田松之丞講談入門』を刊行する。かつて「演芸会の絶滅危惧種」とも称されていた“講談”。その若き担い手に、熱い注目が集まる理由を探ってみた。  取材当日、インタビューの前の口演は、右手の張り扇で釈台(はりおうぎでしゃくだい)(机)をパンパンと叩きながら、3席を披露。圧巻、の一言だった。 ――1席目は大いに笑わされたんですが、2席目と3席目はどちらも「義理」をテーマに据えたシリアスな時代モノでした。実は、こちらが講談の本質なんでしょうか? 松之丞:そうですね。3席目の「赤穂義士伝より『天野屋利兵衛(あまのやりへえ)』」は、いわゆる忠臣蔵の話でしたが、赤穂義士は「四十七士」、四十七人が吉良邸討ち入りに行ったわけですよね。でも、もともと浅野家の家臣は三百人ぐらいいたらしいんです。残りの二百五十何人は、人間ってやっぱり弱いですからね、逃げちゃったんですよ。講談と落語の違いはってよく聞かれるんですが、討ち入りに行ったほう、つまり自分の義とか信念を貫くような人間が、講談の主人公になるんです。逃げちゃったほう、本来なら主人公になり得ない人間を描くのが落語なんですよ。 ――なるほど。 松之丞:(立川)談志師匠の受け売りなんですけどね(笑)。講談で語られるのは、後世に伝わるような美しい物語。土壇場で逃げちゃう心、人間の弱さを肯定したのが落語。これが一番わかりやすい説明かもしれない。講談はト書きも一緒に語る三人称で、落語は会話だけの一人称、とか他にもいろいろ違いはあるんですが。 ――詳しくは最新の著書『神田松之丞 講談入門』で、と(笑)。赤穂義士を陰で支援していた商人「天野屋利兵衛」は、謀反の疑いで奉行所に呼ばれ、拷問にかけられても恩義のある人の名前は決して口にしない。松之丞さんの語りで、お白州の様子がまざまざと目に浮かびました。 松之丞:絶対ウソですよ(笑)。今の自分の芸って未熟で、自分が客だったら聞いてらんないなと思っているんです。本当に鼻くそみたいな芸だな、と。しかも今回、ネタ下ろしですからね。恥をかきにきたようなもんなんです。ただね、いつかもっとすごい「天野屋」を聞いてもらう、そのための第一歩を見てもらう。長い目で見ていただけたら、今日の口演は価値があると思うんです。
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