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『インクレディブル・ファミリー』監督が語る。米国でヒーロー映画があふれるようになったワケ

 6月15日から全米で公開され、アニメーション映画史上の全米興収歴代No.1を記録した『インクレディブル・ファミリー』のブラッド・バード監督が、8月1日の日本公開に合わせて来日した。  本作の物語は、前作『Mr.インクレディブル』のラスト直後からスタート。前作と変わらず、ヒーローたちは活動を禁止されているが、そこへ復活をかけたミッションが舞い込む。しかし、その大役を任されたのは、Mr.インクレディブルことボブではなく、妻のヘレンだった……。  監督を務めた『Mr.インクレディブル』(’04年)と『レミーのおいしいレストラン』(’07年)がアカデミー賞長編アニメ賞を受賞し、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(’11年)や『トゥモローランド』(’15年)などの実写も手掛けてきたバード監督に、ヒーローものでもありながら、ファミリーものでもある本作について、またスパイもののテイストが流れる本シリーズの原点を聞いた。
ブラッド・バード監督

ファミリーの末っ子ジャック・ジャックのぬいぐるみを手に微笑むブラッド・バード監督

主婦になった妻のジレンマに共感するところがあった

――本作を製作するにあたって、監督はご自身の家庭生活が「最高のリサーチ」になったとコメントされています。子育てに四苦八苦するボブの姿には、共感する父親も多いと思います。また、現場復帰したヘレンの代わりに、主夫業をすることになったボブが、ヘレンに嫉妬心を抱く描写もありますね。 ブラッド・バード監督(以下、監督):この作品では、自分が子どもだったころ、そして親になってからの経験が助けになっている。ただボブのように、本当は自分が出ていきたいのだけれど、妻が外に出ていることでジェラシーを感じた、といった経験は、私自身はしていない。 私の妻はもともと映画業界でアシスタントエディターとして非常に活躍していたんだ。出会った当初も、ちゃんとした収入を得ていた。私の場合は監督業でそこまで安定していなかった。でも私が監督として収入を得られるのであれば、子供との時間を過ごしたいからと、妻は自分の意思で家庭に入った。 だけど、やっぱりもともとキャリアのあった女性だから、主婦になったことで、キャリアウーマンとして見られないことに対してのジレンマはあったと思う。見ていてそれは感じたし、共感するところがあった。 ――監督も子育てを任されることはありましたか? 監督:私が3人の子たちをひとりで見なければいけないこともあったよ。それは大変だった。けれど、妻だけに任せたいと思ったりはしなかったね。むしろ、特に子供が小さいころ、4日間NYで出張することがあったりして、歩き始めたり、初めて言葉を発したりといった大切な瞬間に立ち会えなかったりすると、「あー、その場にいられなかった~!」とガッカリしたよ。ほかにも子育てではさまざまなことを経験したから、それは本作にも間違いなく反映されている。
インクレディブル・ファミリー場面写真1

ヘレンの留守を預かることになったボブは慣れない家事・育児に悪戦苦闘

ハリウッドはオリジナルのアイデアを恐れている

――本作では、悪役であるスクリーンスレイヴァーが「ヒーローに頼ってきたせいで、民衆はそれに甘え、弱くなってしまった」と主張します。非常に現代的で新しいタイプの悪役像だと感じました。 監督:ありがとう。自分の作品のヴィラン(悪役)には、説得力のある論点を持ってもらいたいと常々感じている。観客に新鮮さを覚えてもらえるというのは、とても嬉しいことだ。 ――『Mr.インクレディブル』から14年経ち、本作公開までの間に、ハリウッドではヒーロー映画があふれるようになりました。こうした流れについて、率直にどうお感じになりますか? 監督:シニカルな答えもできるし、好意的な答えもできるけど、どっちがいい?(笑) まずポジティブな答えは、人類というのは、神やそれに類する存在の物語を、古来ずっと語り継いできた。今やっと、技術的にもそういったビジョンを説得力のある形で映像化できる時代になったと言える。 シニカルバージョンを語るなら、ハリウッドはオリジナルのアイデアを、本当に恐れているんだと思う。これは上手くいったぞと思うと、枯れるまで、そのアイデアを使い尽くすんだ。
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求めた要素は“スパイもの”にあった
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ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi

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