上司のパワハラを同僚は笑って見てた。職場の集団「いじり」がつらい
社内の歪んだ上下関係が引き起こすパワハラ。現在ではその危険性が少しずつ世間にも周知され、注意喚起されることもしばしばだが……現場レベルではいまだ上司による悪質なパワハラ被害が相次いでいる。
昨年末、中小ゼネコン企業を退社した竹内亮さん(28歳・仮名)は長年に渡るパワハラ被害を受け、精神的な病を患った。
現在、実家で両親の介護をしながらパートに勤しむ竹内さん。ゼネコン時代を思い出すと、今でも胸の鼓動が早くなるという。
「もともと私が気弱な性格といいますか、あまり人付き合いが得意ではなかったのが原因なのかもしれません。入社1年目から陰では『無能君』と呼ばれ、現場ではいつも雑工のような仕事をしていました。一応、元請の社員だったので立場的には上だったんですけどね」
そんな竹内さんに対して、上司のパワハラは入社2年目から徐々に過激化していった。
「決定的に変わったのは、私が社用車で接触事故を起こしてからでした。上司には、損失分は無給で働いてもらうと言われ、交代制の夏休みももらえず働き続けましたね。その後4年間在職していましたが、最後まで夏休みはもらえませんでした」
上司の限度を超えたパワハラは、業務以外の部分でも目立っていったと竹内さんは語る。
「現場で休憩が取れなかったり、休日がなかったり……というのも辛かったのですが、それ以上に会社の忘年会や花見などのイベントで、俗にいう『いじられ』がいちばん堪えました。あるときは、上司から『手だせよ』と言われ、机の上に手を置かされて。なにかと思いきや、上司がボールペンを指の間にものすごいスピードで突き刺し始めたんです」
「すると案の定、薬指にペンが突き刺さり、私は『痛い!』と大声で叫びました。上司はごめんごめんと笑いながら謝ってきましたが、他にいた社員たちも大笑いしていて……今でも思い出すと叫びたくなります」
竹内さんは、所々で言葉を詰まらせながら当時の苦々しい出来事を振り返った。こうしたパワハラは、加害者側に罪の意識が薄いこともままある。
竹内さんが受けたパワハラは常軌を逸するものであり、とても容認できるものではないだろう。とはいえ、だれも止めようとしないどころか、周囲の人たちまで加害者の行動を楽しんでいるように思える。つまり、パワハラの実態とは、イチ個人の問題だけではなく、職場の環境そのものが関わっているのだ。
過去、不動産の訪問営業に携わっていた笹原智樹さん(35歳・仮名)はその職場で集団的なパワハラに悩まされたという。
「自分は、営業時代のチームの上司から精神的なパワハラを受けていました。100万~200万円ほど初期投資のかかる営業だったので、なかなか成約に結びつかないのですが……上司からは常に『なぜ会社はお前みたいな奴を雇い続けるのか』『自分から退職すると言わないのはなぜか』と叱責され続けていました」
上司からの過剰な叱責。しかし、笹原さんを悩ませたのは意外にもその上司だけではなく周りの同僚や部下であったという。
「もちろん上司からの言われようには相当堪えましたが、自分の場合はその周りの反応が一番ツラかったですね。怒鳴られている最中も、ケラケラ笑い話をしていたり、まるで言われて当たり前のような態度を取られたりすることもありました。しまいには部下から『あんだけ言われてなにも思わないんですか?』と侮蔑されたように言われて。思わないわけないでしょうと。馬鹿にしてるのかと心底悔しかったです」
パワハラをする上司に、それを見て見ぬフリをする周りの同僚たち。抜本的な解決のためには、個人へのアプローチだけではなく、職場全体、ひいては会社の問題として意識を変えていかなければ被害者は救われない。<取材・文/小畑マト>
集団での「いじられ」がツラかった
悪質なパワハラは個人で解決することが難しい
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