エロが描けなくて苦しかった
――『夫のちんぽが入らない』と同時発売の短編集
『36度』はそれこそすけべ全開ですね。不倫や浮気、セフレなど、世間一般的には「よくない」とされる関係が描かれていますが、そういう「後ろめたい恋」のほうがすけべを感じるのでしょうか?
ゴトウ:内緒で秘密、ダメと言われてるものだから余計にドキドキ感じる中に、普通の関係では感じることのない虚しさや悲しさがあるのがいいと思います。
――『36度』には、『夫のちんぽが入らない』の“痛いSEX”とは真逆と言っていいほど、貪欲に性を楽しむ人たちが印象的でした。
ゴトウ:「おかしな2人」の、しこたま飲んで、ただヤリまくるという話が描けたことに満足しています。
短編集『36度』の、男性漫画家と女性アシスタントの関係を描く一編「なれた手つきでちゃんづけで」より。「女の子の体をお餅みたいに描けたのがよかったです」(ゴトウ)
――前作の『きらめきのがおか』は「エロが描けなくて苦しかった」と言っていましたね。
ゴトウ:『きらめきのがおか』は、決して嫌いだったというわけではなくて。でもエロが描けないことで、連載中は頭の中が欲求不満状態だったんです。早く性処理しないとどうにかなる、みたいな感じで。なので『きらめきのがおか』が終わったあと、発散するみたいにすけべな読み切り(短編集『36度』に収録されたもの)を描いた。性描写は恥ずかしいけど描かないとだめになる。オナニーの感覚に近い気がします。
――オナニー、ですか。
ゴトウ:はい。オナニーです。
――性をモチーフにした作品が多いゴトウさんですが、そのきっかけは『東京大学物語』だったそうですね。
ゴトウ:はい。オナニーしました。小3だったと思います。
――『東京大学物語』で、したんですか。
ゴトウ:『東京大学物語』のセックスシーンで、しました。
――……ほかにはありますか。
ゴトウ:小学校低学年の頃、親に隠れて読んでいた『スピリッツ』は、『東京大学物語』のほかに『花園メリーゴーランド』『ビリーバーズ』『センチメントの季節』が載っていて衝撃を受けました。大人になって読み返してみても、やっぱりエロくてエグかったです。それらの作品にいい意味で狂わされた感があります。
――これからも欲求を溜めることなく、すけべな漫画を描き続けてほしいです。
ゴトウ:ありがとうございます。私が漫画にいい意味で狂わされたように、私も誰かの何かをいい意味で間違った方向に曲げてしまうような漫画が描きたい。
ゴトウユキコ著『36度』。「いおりとちはる」「なれた手つきでちゃんづけで」ほか全6編を収録。
ゴトウユキコ
漫画家。’09年、『赫色少年の素晴らしき日々』で第60回ちばてつや賞ヤング部門大賞を受賞しデビュー。著書に『R-中学生』『水色の部屋』『きらめきのがおか』などがある。『週刊ヤングマガジン』で連載中の『夫のちんぽが入らない』第1巻、短編集『36度』が発売中。
取材・文/高石智一 撮影/杉原洋平