作家・島田雅彦が語る”酒上手”への道

作家・島田雅彦が語る
酒道 <一人呑み篇>

 酒は体調のバロメーターというところもあります。記憶を失うことはないけれど、食べ合わせが悪かったり、睡眠不足だったりして、年に何回かはふと目覚めると、時間を奪われているという経験はある。時計を見て午前1時だったのが、次は午前5時だったというようなね。それに、昔は目覚めたら、「ここは誰の家だ?」ということもあった。「すみませんが、どちらさまでしたっけ?」と(笑)。 

 一番、怖ろしかったのは、同じようなことをしてしまったと思い込み、着替えて帰ろうとしたら、自分の家だったという(笑)。

 学生の頃から、よく一人で酒場に出かけますよ。ただ、基本的には、酒を呑みに行くのであって、みんなと盛り上がりたいという気持ちは私にはあまりない。酒があれば、どこでも酒場になるわけですからね。鳥取に行ったときには、夜中に砂丘にビニールシートを敷いて”野酒”をしたりもしました。

 20代の頃は36時間ぶっ続けで呑んだり、無茶な呑み方もしていましたね。途中でカラオケや卓球、サウナに行ったりしましたけれど、だんだん肌がカサカサになって、脂っ気が抜けきっていた(笑)。

 最近は酒自体には弱くなってきていますが、妙な度胸や余裕がでてきてしまいましてね。学生運動にのめり込んでいた団塊の世代の人たちはケンカっ早く、しょっちゅう暴力の現場にいあわせてイヤな思いもしていたけれど、酒呑みのスケベ心として、トラブルに遭いたい、いざこざの現場に居合わせたいという気持ちも出てきました。

 ただ、この頃、めっきり酒場でのケンカは減りました。私は暴力は嫌いなんですが、酒に愚行はつきものだし、バッカスへの貢ぎ物のように酒場に暴力を奉納している雰囲気もあった。酒場のマダムや客同士には暗黙の了解があり、いまのように警察にすぐに通報するなんて無粋なことはしなかった。大人の処理の仕方をして、酒と暴力をコミュニケーションツールにしていたとも言える。そういう呑み方はきれいだと思えないけれど、酒の場はコミニュケーションの場でもあります。一人呑みをしていても、結局、他人に酒席を交えたいと思われる人間になることこそ、心から酒を楽しめる”酒上手”への道だと私は思うんです。

【島田雅彦氏】
’61年東京生まれ。作家、法政大学国際文化学部教授。東京外国語大学在学中の’83年、『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。最新刊は『徒然王子 第一部』『徒然王子 第二部』。『酒道入門』ほか、著書多数

― 一人呑みへべれけ珍事件簿【7】 ―




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