この一戦はリアルファイトか否か?
──しかし、メイウェザーにそこまでの商品価値があるんですかね。年末にテレビをつけるライト層がどこまで知っているのか……。タイソンだったら、マドンナやジョニー・デップと同じくらい知名度があると思いますけど。
石井:たしかに普通の日本のおじいちゃん・おばあちゃんは、メイウェザーなんて聞いたこともないでしょう。ただ、RIZIN側としては世界的なビジネスとしてこの件を捉えているはずなんです。いかにバリューを上げて、いかに資本を集めて、いかに大きなビジネスとして世界に流すか。メイウェザーという選手をリングに上げることによって、RIZINというプロモーションの価値は大いに上がるわけです。今回、仮に収支がトントンくらいだったら、中長期的に見て大成功と言っていい。単純なチケットのゲート収入とテレビ放送権料だけの話ではないですから。
──さて、当日の試合についてです。ファンが一番気にしているのは、ズバリ「真剣勝負でやるのか?」という一点だと思うんですよね。館長は、どう思います?
石井:その前に「そもそも本気でやるの?」「それともマススパーの延長なの?」「天心が倒しちゃうこともあるの?」って、やいのやいの騒がれている今の状態はRIZIN側としては悪くないんですよ。それだけ世間で話題になっているということですから。つまりチャンネルを回すということですから。この時点でRIZINの勝ちということなんです。
──結果が凡戦に終わっても、視聴者の興味を惹きつけられるでしょうからね。とはいえ今後のことを考えると、やはり名勝負になったほうがいいはずです。
石井:そこは大丈夫ですよ。メイウェザーが名勝負にしますから。彼は非常にディフェンシブな選手。なおかつ臆病なくらい慎重なところがある。自分から不用意に仕掛けることはしない。一方、天心は1Rから振り回してくるでしょう。巧みに避け続けるメイウェザーを、果たして天心は仕留めることができるのか? これは非常に見所があると思いますけどね。
──勝負論というのは、両者が勝ちにこだわるからこそ生まれるのでは? 一方がのらりくらりとスカしているだけだと、観ている側はフラストレーションが溜まりそうです。
石井:やっぱりファイターには一般の人に窺い知れない闘争心が存在するんですよ。昔、後楽園ホールで往年の名選手を集めたチャリティーマッチがあったんです。それで僕が軽く控室を覗いたら、みんなバンテージを巻きつつ完全にボクサーの目に戻っているんです。具志堅用高さんや渡嘉敷勝男さんが「もっとキツく巻け!」とか声を荒げていてね。
──その大会、エキシビジョンですよね?
石井:もちろんエキシです。でも、ファイターとしての血には抗えないんでしょうね。だからいくらメイウェザーだと言っても、本番では決戦モードに突入する可能性は高い。しかも今、メイウェザーは自分が負けるわけないと思っているわけでしょう。天心を舐めてかかっているわけですよ。当たり前じゃないですか。体重も10kg以上違うし、ルールもボクシングなんだから。だからこそ、面白くなる。僕はそう信じています。
──そうだと、うれしいのですが……。
石井:基本はメイウェザーが牛若丸のように避ける展開。だけど「攻撃は最大の防御」と言われるように、要所でカウンターは出してくるでしょう。メイウェザーはディフェンスのイメージが強いかもだけど、パンチ力もめちゃくちゃありますよ。というか、世界チャンピオンになるにはテクニックだけじゃ無理。世界を獲る人は、みんな桁外れた腕力を持っています。軽量級の亀田興毅くんだって腕相撲はものすごく強いですからね。だから天心のお父さんが両者10オンスという部分に難色を示すのも当然なんです。もちろんメイウェザー側は一蹴したはずですけどね。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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