メイウェザーにとって10億円の価値は?
──でも、それって完全に土下座外交じゃないですか。
石井:そうかもしれない。でも土下座外交だろうがなんだろうが、とにかく12月31日の当日はメイウェザーをリングに上げなくてはいけないんですよ。これは絶対です。何があっても断じて上げないとダメ。じゃないと、RIZINは存続できなくなる。なぜなら世界中が注視しているからです。瞬間最大視聴率で紅白歌合戦を超えたという曙VSボブ・サップだって、騒がれていたのは日本だけです。それとは意味が根本的に違うんですよ。「あのメイウェザーが上がったリング」ということで、今後、RIZINの求心力は世界規模で見たら上がっていくはずですし。
──国内だけでなく、海外を意識した一戦ということですか。
石井:K-1やPRIDEが格闘界の中心だったのはとっくに過去の話で、今はUFCが抜けた存在であることはご存知だと思います。そして豊富な資金をバックにアジア圏で勢力を伸ばしているのがONE。そんな中、バラちゃんが9回裏に放った起死回生のホームランが今回のメイウェザーVS天心なんですよ。正直、過去にはK-1とPRIDEで揉めたこともあったけど、そんな些細なことはどうでもいいです。日本の格闘技を救ってほしい。バラちゃんには、ここで男になってほしい。すごいことをやっているのは間違いないんだから、称賛されてしかるべきですよ。
──この一戦は、メイウェザー側からRIZIN側に持ちかかけられたという話です。マニー・パッキャオ戦では280億円のファイトマネーを手にしたと言われる男が、なぜ10億や20億円で動くのでしょうか?
石井:単純にお金が必要なんですよ。訴訟もたくさん抱えていますしね。あとはタイソンもそうだったけど、こういうカリスマ的なボクサーの周りには有象無象の取り巻き連中がたくさんいる。これはアリの時代から変わらないな。正直言って高級車を何台持とうが、家を買おうが、派手に女遊びをしようが、膨大なファイトマネーが消えるほどの額ではないですから。それ以外の部分で、なにかとお金が流れていくものなんです。
──RIZINはメイウェザーの継続参戦も示唆しています。
石井:ボクシング・ルールにこだわる限り、メイウェザーの価値は落ちないでしょう。僕だったら、来年の年末は亀田興毅とメイウェザーをマッチメイクしますけどね。両者とも引退した身だから、ボクシング協会もうるさいことは言わないでしょうし。RIZIN側が継続参戦を口にしているのは、一種の“牽制”と見ていいでしょうね。中国マネー、ロシアン・マネー……お金というものは、あるところにはたくさんある。そことの勝負を見越しているわけです。
──天心が「絶対に倒す」と宣言する一方、メイウェザーは「リアルファイトじゃない」と冷めた調子で言い放っています。この温度差は、どう解釈すればいいんでしょうか?
石井:メイウェザーとしては、そうコメントするしかないんです。「俺が真剣勝負をするんだったら、こんな金額ではやれない」っていうことを暗にアピールする必要があるわけですから。本人も言っているように、これからメイウェザーは世界中で稼ぐつもりなんですね。たとえばRIZINに20億円で上がったとします。それでONEから「じゃあ、うちにも20億円で出てよ」って言われる。そのとき、「何言ってるの? あれは3Rのエキシビジョンだから。真剣勝負だったら、30億円どころか300億円だよ」ってことで、さらに金額を跳ね上げたい。それが交渉というものですよ。RIZIN側からしたら、やたらとエキシビジョンであることを強調するメイウェザーの態度は面白くないでしょう。でもエキシビジョンだからこそ、10億や20億円のお金で済むのも事実であってね。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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