新宿のケイさんはなぜホームレスに? 絵本『ケイさんのゆめ』に込めた思い
’18年に厚生労働省が発表した「ホームレス概数調査」によれば、全国で4977人が路上で生活をする、いわゆるホームレスだという。この20年間で“データ上では減少”しているが、ネットカフェ難民などを合わせればその実数は3倍近くになると言われている。
日本の最貧困層と称していい彼らは、なぜ路上で暮らすことになったのか。そんなホームレスに至るまでの経緯を描いた絵本が、今話題を集めている。
その名も『ケイさんのゆめ ―とあるホームレスのものがたり―』(発行・パブフル社)だ。製作したのは、学生時代からホームレス支援に携わる保健師の鈴木朝美さん、イラストレーターの飯田麻奈さん。全26頁、愛らしい絵柄の中に、現代のホームレス問題が忍ばされている力作。大人も子供も読んでほしい絵本を作った理由を、両者に尋ねた。
――まずは『ケイさんのゆめ ―とあるホームレスのものがたり―』を作ろうと思った理由を教えてください。
鈴木朝美(以下、鈴木) 日本は欧米諸国に比べて、貧困に対する教育が乏しい、と感じたのが大きな理由です。私がまだ学生の頃、カナダのモントリオールに留学した時に衝撃を受けました。現地では路上生活者が大人から子供までいるのですが、市民に“支援“が根付いているんです。彼らが持つ募金箱にお金を入れたり、普通に会話もする。
でも、日本でホームレスに対峙した時に、親の教えは「近づいてはダメ」ですよね? 長年“触れてはいけない存在”にされていた。
飯田麻奈(以下、飯田) 私も子供の頃、「近づいてはいけない」と教えてられていましたね。ずっと子供向けのイラストを描いたこともあり、この本を描くまでは、正直言って私もホームレスの皆さんの存在には無関心という状態でした。
鈴木 カナダから帰国後、私は医療従事者という事もあり、医療関係で支援している団体を調べたら、福岡県博多市にある「千鳥橋病院」が毎月1回ホームレス医療支援をしていることを知りました。すぐに現地に飛び参加させてもらい、最初に携わった患者さんが“結核疑い”でした。こんな重病患者が路上で苦しんでいることに衝撃を覚え、死と隣り合わせで生きている彼らを支えなくては……という使命感にもかられました。
ただ、まだまだ日本では支援する人達は少ない。もっと彼らが、路上で暮らす理由を、もっと彼らの存在を知ってほしいという気持ちから、絵本の制作に動いたのだと思います。
――なぜ、“絵本”だったのでしょうか?
鈴木 日本には「貧困」を題材にした書籍はたくさん溢れていますが、読み手は一部のアカデミー層に限られていると思うのです。日本は貧困に対する教育が遅れていて、小中高校生から大人まで、もっと学ぶべき分野だと思います。
彼らが路上で暮らすことになったのは理由はある。実際は這い上がりたい気持ちを持つ人も多い。ホームレスになる理由を、大人子供関係なく万人に伝えたい。この問題を、自然に読んでほしいと考えた時に、出た答えが絵本でした。構想1年半、制作期間半年、かなり悩んで悩んで作りました(苦笑)。
飯田 私も「ホームレスのおじさん」という題材に最初には悩みました。家も最初はダンボールを敷いて寝ているイメージしか湧かず、公園に住んでいるのか、河川敷に住んでいるのか、いざ絵に描くとなるとよくわからなかったです。鈴木さんから「ここはブルーシートハウスです」と指示されて修正したり。
鈴木 主人公のケイさんは、実在する人物です。新宿区で『ビッグイシュー』を売っていて、私は購入する度に交流をしていました。
――『ビッグイシュー』も、ホームレス支援を目的の雑誌とは知られていませんよね。
鈴木 そうなんですよ、1冊350円で販売すると180円が販売者の収入になります。有名芸能人が表紙なのも、彼らが一つの支援として登場しているからです。
ケイさんは新宿区にいた、実在するホームレスだった
1
2
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ