フェンウェイ・パーク設営で大変だったことは? 「Nope!(ないよ!)」
トラック設営の責任者マークさん
そうは言っても、完成して100年以上が経つ古い球場だ。耐久性や保護のための費用は相当にかかったのではないか。莫大な保険がかけられたのではないか。契約書はとんでもない厚さになったのではないか。そうした疑問をコース設営の責任者マーク・ヴァン・デル・スラウスさんにもぶつけたが、「Nope!(全然!)」と笑顔で一蹴された。
「まず、設営費用は非公開だが、横浜大会とほぼ同じだよ。最も費用がかさんだのは、フィールドを守るためにスチール板を敷き詰めた点かな。これには時間もお金もかかったけれど、その他の経費が横浜より安くあがったから、全体でほぼ同じになったんだ」
「例えば、横浜では記録的暖かさに見舞われたから、およそ5万kgの氷を撒くはめになったけれど、ボストンではその1/10の量しか必要なかった。大体にして、最初からなんの問題もなく、準備は進められてきたよ」
5階席からコースの全景を眺める
ゲルハルトさんも話していたのが、レッドブル・クラッシュドアイスとしては「非常にいい条件」をオーナーから提示されたということ。加えて、オーナーとの契約なので、市町村といった行政機関との契約よりも、シンプルに事は進んだと両者は口を揃える。
「確かに、耐久性は考慮するポイントで、設営には5週間ほどかかった。でも、セキュリティも導線も普段からベースボールで稼働しているし、同じノウハウのあるスタッフが担うので、イベントとしてはやりやすい面の方が多かったね」
ゴール脇には、マウンドを模した囲いの台がある。傾斜のあるマウンドにはスチール板を敷くことはせず、土台を造って保護し、「その下にマウンドがある」とわかるようにペイント。選手の家族のための特別応援席にしたという。
高さのあるピッチャーズマウンドはこのように保護され、マウンドとわかるようにペイントされていた
また、ゴールエリアのフェンス手前には「その下にホームベースがある」とわかるように、ベースをかたどったペイントが氷の下に埋まっていて、選手がゴール後にスライディングしたりと遊び心たっぷりにパフォーマンスしていた。
その度にあがる大歓声。というより、どんなパフォーマンスでも大いに反応するのが、アメリカのファンの良いところだろう。
最新の競技が伝統ある球場で行われた(Ryan Taylor: Red Bull Content Pool)
このボストン大会では、日本人選手5名が参戦。「やっぱりこの盛り上がりはいいですね」と
パイオニアの山本純子は場内を見渡して笑った。山本は今大会を7位で終え、自己最高位の世界ランキング6位につけている。
山本純子選手は7位と健闘。女子世界ランキングは6位に!(Ryan Taylo::Red Bull Content Pool)
インラインスケート世界王者の安床武士は、フリースタイル部門とレースとで、ダブルエントリーをしたが、納得のいくパフォーマンスができず、「この歓声の中で、自分にしかできない大技を決めたかった」と悔んだ。
アイスホッケー選手としてエリート街道を歩んできた鈴木雅仁は、今大会83位に終わった悔しさをこぼすも、「この歓声はどんな薬よりも効く。味わっちゃうと病みつきになりますね」と奮起。
現役高校生の吉田亜里沙と大学生の山内斗真は、シニア部門のほか、16歳から21歳が出場できるジュニア部門とダブルエントリー。吉田はタイムトライアルで惜しくも両部門ともに決勝進出はならなかったが、山内はジュニア部門で3位入賞と日本人初の表彰台に登った。
最後になったが、ATSXとはThe All Terrain Skate Crossの略。つまり、障害物やコーナーといった特異な地形で競うアイスクロス・ダウンヒルを始めとする、ユニークなダウンヒル競技を包括している。昨年12月の横浜大会は、ATSX Federationである協会が、本格的に国際大会の拡充へと舵を切ったことを意味する。すでに欧米では招致合戦も起きているというアイスクロス・ダウンヒル。冬季オリンピックの正式種目を目指し、ますます盛り上がっていきそうだ。
取材・文・撮影/松山ようこ 動画/©Red Bull Media House