更新日:2023年03月12日 09:19
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19歳で大腸を全摘出。偏差値30から外科医になった医師・石井洋介氏の壮絶なる半生

自分を救ってくれた外科医になるという希望

――その間はどんな生活を? 石井:当時は祖母が買ってくれたPCでネットばっかりしていましたね。2ちゃんねる(現5ちゃんねる)にこの病気の人が集まるスレッドがあって、そこで「一度、人工肛門にしても、閉じてくれる病院がある」ことを知ったんです。人工肛門を取るというのは、腹部についている人工肛門を外し、肛門から排泄できるようにすること。現在では人工肛門を造設せずに最初から肛門につなぐ手術ができる病院も増えてきていますが、当時は珍しかった。すぐに病院に行って手術することにしました。 ――人工肛門が取れたときは、どんなことを思ったのでしょうか。 石井:僕の手術をしてくれた横浜市立市民病院の執刀医の先生はまさにスーパーヒーローでした。「僕もあんなカッコいい先生になって、人をたくさん救いたい」と思って医学部受験を決意したんです。偏差値は30とまさに底辺でしたが、大腸も全摘して人工肛門も閉じた、もはや病気を言い訳にはできない状況です。当時は机に座る体力すらなかったので、本を書き写して、勉強に集中する訓練からのスタートでした。予備校にも通い2年かかりましたが、高知大学医学部に合格しました。 ――研修医を経て、憧れの外科医に。爆速で夢を叶えていきましたね。 石井:外科医になったとはいえ大きな壁にもぶち当たりました。ガン患者に開腹手術をしてみたら、すでに手遅れだったというケースもあって。また僕と同じように人工肛門を閉じる手術を受けても合併症で苦しんだり、再び人工肛門になる人もいた。無力感にさいなまれましたね。 ――どんな名医の技術でも、患者を救えないことがあるのですね。 石井:特に大腸ガンは「サイレントキラー」と呼ばれ、進行するまで症状は出ないんです。初期症状は血便や下痢、便秘、便が細くなる、残便感があるなどの異変が出ます。でもそれを知っている人は少ないし、普段から意識して観察しないと病気にも気づきません。血便が出ても放置していた16歳の僕も同じです。医師として、元患者として「健康や医療情報に興味がない人にも、病気になる前に正しい医療情報を届けたい」と考えるようになりました。日本での大腸ガン検診率は40%にも満たない、これが現状なんです。 ――その思いが「うんコレ」の開発の基になったんですね。 石井:はい。この規模のゲームは人件費を含めて何千万円もかかると言われますが、門外漢だからできたのかもしれない。数多くの人の善意と熱意で、ここまで進んできました。 ※3/26発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【石井洋介】 ’80年生まれ。医師。高校生の頃に難病である潰瘍性大腸炎にかかり、19歳で大腸を全摘出。現在、秋葉原内科saveクリニックの共同代表を務め、医療×クリエーティブデザインによる健康格差是正を目指し、さまざまな分野で精力的に活動している 取材・文/アケミン 撮影/菊竹規
週刊SPA!をはじめエンタメからビジネスまで執筆。Twitter :@AkeMin_desu
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週刊SPA!4/2号(3/26発売)

表紙の人/ 日向坂46

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19歳で人工肛門、偏差値30の僕が医師になって考えたこと

生死をさまよう大手術で大腸を全摘出。人工肛門を閉じる手術を受け、「残りの人生は人のために生きよう」と一念発起して憧れの消化器外科医に。スマホゲーム「うんコレ」を開発した異色の医師の挫折と成長の物語。

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