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パリから前橋へ。パレ・ド・トーキョーで活躍したフランス人アーティストが鉄板焼きをアートにした

パリで展開した「アート作品としてのレストラン」が大ヒット

 ジルさんはかつてパリで主に「食」を題材にしたアート作品を展開していた。例えば、「世界一高い綿菓子」を作るというパフォーマンスを行い、3.2メートルの綿菓子を作成したり、建築家の協力を得て7.8メートルの「世界一高いケーキ」を作り上げたこともある。

ジルさんが作成した7.8メートルの「世界一高いケーキ」

 そして、彼はパリのセーヌ川に面する現代美術館「パレ・ド・トーキョー」の屋上で、2009年から2011年の2年間にわたり「アート作品」としてレストランを経営し、大ヒットさせた。これまた「レストランがアート作品?」と思われる人が大半だと思うが、その「Nomiya」というレストラン(日本語の「飲み屋」からネーミングされている)はわずか12席ながら毎日違う料理を出し、ジルさん曰く「装飾、料理から利用客までのすべてが『Nomiya』というアート作品を構成していた」のだそうだ。

フランス、パリ16区にある現代美術館「パレ・ド・トーキョー」の屋上にあったレストランであり、ジルさんの「アート作品」である「Nomiya」。2009年から2011年の2年間オープンしており、セレブなどが訪れていたという

「『Nomiya』はすごく評判になりました。多くのセレブが訪れるようになって、予約も取るのも大変なほど人気でしたよ。でも、有名になるにつれファッショナブルなコンテンツとして作品が消費されるようにもなってしまいました。私の活動がビジネスのようになっていくことには、違和感も覚えていたんです」  そして、パリでの生活に少し疲れたジルさんは前橋にやってくることになった。「Nomiya」プロジェクトで知り合った日本人女性と結婚し、彼女が前橋でアート関係の仕事に就いたことがきっかけで、「パラシュートで落とされたように」(ジルさん談)見知らぬ土地で生活をするようになった。彼女の実家の前橋の田んぼで米をつくるのが性に合っていたらしく「今の職業はファーマーです」と笑っていたが、世界各地で食をテーマに取材やアート制作をしてきたジルさんにとって、米作りや畑仕事をしながら地元の人たちと交流することは、アーティストとしても大きな刺激になっているようだ。

前橋で自分が耕す畑を案内してくれたジルさん。指さす方向にあるのが赤城山

 その前橋での生活の中で体験や交流がジルさんの新しい創作意欲を掻き立てていく。お気に入りの中華料理屋で友人となった店主がラーメンを作っている音の豊かさに気づいた彼は、中華料理を作る音をマイクで増幅し、そのかたわらで、ギターとウッドベースの奏者がセッションをする「ラーメン・シンフォニー」という作品をつくったり、観客に黄色い花山椒を食べさせて黄色の映像を見させているうちに「黄色を食べた感覚にする作品」をつくったりと、さまざまなアート作品を生み出し続けている。そして、日本での経験を活かしたアート作品を母国フランスはもちろん、アフリカのエチオピアにまで「輸出」しているのだ。ジルさんがエチオピアに持ち込んだのは、なんと日本の「鉄板焼き」を「楽器」にしてしまうという作品だ。

ジルさんがお気に入りの中華料理屋「麺家族」のご主人と。「ラーメン・シンフォニー」という作品にも登場

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前橋で見つけた「焼き鳥」が…
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※ジル・スタッサールの個展が群馬県前橋市で開催中。ただし、今回は「食」がテーマではありません。その詳細は次回! <ya-gins vol.33 Gilles Stassart「Genealogy」>

会場:ya-gins
住所:〒371-0022 群馬県前橋市千代田町3-9-2弁天通りアーケード内
会期:2019年4月28日まで
オープン毎週金・土・日曜
時間:13:00-20:00
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