更新日:2023年03月20日 11:13
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パリから前橋へ。パレ・ド・トーキョーで活躍したフランス人アーティストが鉄板焼きをアートにした

前橋で見つけた「焼き鳥」が、エチオピアで「鉄板焼きアート」になるまで

「そもそもは町内の納涼会の屋台で焼き鳥を焼いている姿がDJみたいに見えたんですよ(笑)。で、料理をしている音でみんなでダンスをする、ということを思いつきました。それで行きついたのが、鉄板焼きの音。鉄板焼きで料理をするジューっという音をマイクで拾う。その鉄板焼きの音と、エチオピアのバーカッショニストたちがコラボするという作品で、名付けて『ソニック・バーベキュー』(笑)。すでに2回、エチオピアでパフォーマンスしていますよ」

エチオピアでジルさんが焼く「鉄板焼き」の音に合わせて現地のバーカッショニストたちが演奏し、現地の人たちが踊りまくった「ソニック・バーベキュー」の様子 「Alliance Ethio-française Addis Ababa」Facbookページより

 きょとんとする我々に「映像を見せましょう」とスマートフォンを取り出すジルさん。そこに映し出された映像は、夜のエチオピアのどこかの街か村。鉄板焼きを焼くジルさんと、もうその鉄板焼きの音に合わせているのかどうかわからないぐらい激しくパーカションを叩きまくる何人ものミュージシャンと、踊り狂うエチオピアの人々の姿だった。これは楽しそうだ。そして、踊り終わったら鉄板で焼いた料理をみんなで食べるとのことで、いかにもジルさんらしい「アート・パフォーマンス」である。  だが、少しややこしいことを書くと、彼にとって「食」は大事なテーマだが、実は「食」をアートにしているわけではなく、彼のアートの表現手段のひとつが「食」なのである。最初に書いたようにジルさんはシェフでもあり、ジャーナリスト、小説家でもあるが、それらの前に「アート」があるという。その証拠に、「生活の中にこそ、面白いアートがある」と語る彼は、自らを「フード・アーティスト」と呼ばれることを強く否定する。 「アートと食、アートと何かを分ける意味が私にはわからない。専門性が重要とされている現代社会だからこそ、むしろ私は越境者でありたいんです。アーティストとはさまざまなものをコネクションしていく存在。私は作品を通じて社会に『キリコミ(切り込み)』を入れていきたいんですね」 「切りこみ」という日本語は、彼が前橋で見つけた大事なテーマのようだ。前橋にやってきて、老舗の刃物屋のご主人を取材するなかで知った言葉だという。そして、それは彼が日本に来る前から展開していたことと通じる。彼にとって「社会へ切り込む」方法のひとつが、アーティストとしてこだわってきた「現代の食のあり方」への問題提起なのだ。  冒頭で紹介した「スロット・フード」も、一見、楽しげなゲームと料理のパフォーマンスに思えるが、その奥には食材が大量生産・大量消費されスーパーマーケットに画一的な食品が並べられていることへの疑問を投げかけようという意図がある。そのため、あえて小規模な地元の農家の食材を使用し、スロットという偶然によって既存の流通システムでは出会えない食材の組み合わせを作り出しているのだという。  また、エチオピアでの「鉄板焼きパフォーマンス」も単なる楽しいパフォーマンスだけで終わるものではなく、エチオピア人の若いシェフにジルさんがフランス料理を教えたり、いずれはエチオピア人のDJやミュージシャンと一緒にフランスの美術館や日本でもパフォーマンスをすることも計画されており、文化的にも経済的にも人々の交流が生まれていく現在進行形のプロジェクトなのだという。
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※ジル・スタッサールの個展が群馬県前橋市で開催中。ただし、今回は「食」がテーマではありません。その詳細は次回! <ya-gins vol.33 Gilles Stassart「Genealogy」>

会場:ya-gins
住所:〒371-0022 群馬県前橋市千代田町3-9-2弁天通りアーケード内
会期:2019年4月28日まで
オープン毎週金・土・日曜
時間:13:00-20:00
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