更新日:2019年09月23日 14:04
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西成出身、元『men’s egg』モデルの今。抱え続けた葛藤、海外を旅するヒッピーに!?

西成出身、“普通”の感覚とのズレに悩み続けた

 海外で現地の深い場所に飛び込んでいけば、何かトラブルに巻き込まれる可能性も否定できないが、恐怖心はなかったという。原田氏は、「僕が生まれ育った西成が関係しているかもしれない」と話す。 「普通に生きているだけでも何かしらが起こる。たとえば、そのへんの銭湯で出会ったおじさんに飲みに誘われて付いていったら、虎の剥製が置いてある暴力団の事務所だったり、逆ナンパされた相手が飛田新地で働いている女性で、その1週間後に『私と知り合いだとは誰にも口外しないこと、連絡先も消したほうがいい』って言われたり。そんな体験が幼い頃から日常茶飯事でした。善悪の境界線が曖昧で、常に生死が身近にある。ただ、西成ではすべてが自己責任。だから、海外でも同じ感覚でした」 原田勇介 自由を求め、これまでに約30か国を訪れた原田氏。そして、辿り着いた意外な場所とは……。 「いろんな国をまわって気づいたのは、実はいちばん自由なのって、地元である西成なのかもしれないなって。ここにいる人たちは、社会的な体裁はもちろん、将来とか先のことにも縛られない。まさに、今を生きている。極端な例かもしれませんが、明日のお金は明日稼げばいい、それよりも今を楽しむために酒を飲む。いつか人は絶対に死ぬ。だから、今を生きないと意味がないって。まあ、それが許される場所は少ないと思いますが……」  だれもが学歴や社会的な地位、安定した収入を得るために、自分を取り繕って生きている。そんな価値観に違和感を覚えたのは、メンズエッグモデル時代だ。 「ずっと西成で生きてきて、初めて一般社会の常識を知ったのがメンエグでもあるんです。やっぱり、大学生や普通の家庭で育ったモデルが多いなかで、自分の感覚ってズレているのかなって気づいて。だから、モデル仲間にも本心を言えなくて。心からは打ち解けられなくて悩んでいましたね。出身も“阿倍野あたり”ってニゴしてたので」  メンズエッグはチャラい、だらしないなどのイメージばかりが先行するが、そこは意外にも大人の社会だった。何か問題があれば、雑誌や広告主に迷惑が掛かるかもしれない。  ――自分はココにいてもいいのだろうか?  自問自答しながら、彼は西成出身であることを長く隠し続けてきたのだ。ようやく公表できたのは昨年のことだ。 「ひと昔前の西成は悪い噂ばかりでネガティブに語られる場所でした。最近はYouTuberがピックアップしてくれたおかげで、観光客にも人気のスポットになりつつあります。だから、SNSでようやく僕も公表できた。個人的には彼らに感謝していますね」

「収入は今がいちばん大変だけど、今がいちばん幸せ」

 モデルとして活躍し、同時に海外も飛び回る。一見華やかに思えるが、その裏には多くの悩みも抱えていた原田氏。ついに安定収入を捨て、30歳手前でアパレルメーカーの専属契約を止めた……。  現在は、単発の撮影依頼は受けているが「収入面では今がいちばん大変かもしれない」と本音を吐露する。その一方で「今がいちばん自分らしくて幸せ」とも言う。そう、幸せの価値観は人それぞれなのだ。旅をするごとに、見栄やプライドをはじめ、自分にとって本当に必要なもの以外を次々に捨てていった。 「まだ収入にはなっていませんが、これからは世界を旅しながら古着を買い付けて、ネットショップで売ろうと思って。ひと通りの撮影も終わって、すでに形は出来上がっていますよ」 原田勇介 筆者は元メンズエッグ編集部員。現役時代、目の前にいる彼の胸のうちを知る由もなかったのである。あれから時が経ち、多くのしがらみから解放されたおかげか、清々しい表情を浮かべる原田氏。雑誌が終わっても、人生はまだ始まったばかりなのだ。その目は、メンズエッグモデルだった頃よりも輝いているかもしれない。<取材・文/藤井厚年、撮影/長谷英史>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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