更新日:2023年05月07日 13:36
ライフ

「月13万円で自宅に1ヶ月間監視カメラ設置」という異例の社会実験。情報の買い手と売り手を直撃

代表取締役遠野氏インタビュー。異例の実験「Exograph」の目的とは

 続いて、社会実験「Exograph」の仕掛け人であり、株式会社Plasmaの代表取締役、遠野宏季氏(28)にも話を聞いた。  発表当初から各方面で話題をさらっている今回の実験の目的について、遠野氏は以下のように語る。 「目的は大きく分けて三つあります。1つ目は、オフラインデータの、収集方法及びその社会的、経済的な活用の仕方を探ること。2つ目は、そうしたデータの活用を進められる土壌が日本にあるのではないかという仮説の立証。そして3つ目が、個人情報といったセンシティブな情報を運用するうえでの既存の価値観への問題提起です」
カメラを設置する遠野氏

注目度が高く、紙、映像メディア問わず取材に訪れていた

 ここでいうオフラインデータとは、「Exograph」で取得するような、個人情報を含むデータのことだ。こういった情報の利用価値については今のところ判断ができないという前提があったうえでも、遠野氏は積極的に収集、活用するべきだと主張する。 「検索エンジンやSNSでは、オンラインのデータの活用が進む一方で今回の実験で得られるようなオフラインのデータは、まだまだ公には活用がされていません。データが石油に変わる次の重要な資源と言われているなか、オフラインだけデータを取らないというのはもったいないと考えています」  オフラインデータの収集方法及びその社会的、経済的な活用の仕方を探ることが目的の1つであると語る遠野氏。では、データの収集という意味で実際の被験者はどういった基準で選定されたのだろうか。 「まず前提として、応募者の属性と、取ったデータがどういった活用のされ方ができるかを模索することが重要なので、データの量やバランスはそこまで重要視していません。採用する被験者の実験に対してどのような感情を持っているかも同様です。そのうえで実際に4名を採用しました」  応募者の属性にフォーカスし採用したと語る遠野氏。採用した4名の内訳については以下の通りだ。 「応募者の年齢の分布で、24歳と29歳に山があったので、まず、24歳と29歳の男女1名ずつを選びました。あとは、その年代ごとの平均年収に近い男女、つまり24歳の男女の平均年収に近い方。29歳の男女でかつ平均年収に近い方をそれぞれ採用しました」  ITリテラシーの高い世代が今回の実験の応募者として多かったという背景からも、実験の目的の2つ目であるデータ活用ができる土壌の検証について遠野氏はあくまで前向きだ。 「アメリカではFacebookがユーザーの個人情報を大統領選挙に不正利用したことで、個人情報の利用にはセンシティブになっていますし、ヨーロッパもGDPR(EU一般データ保護規制)などで同じ状況になりつつあります。ですが、日本はデータ活用に関する規制がそれに比較して寛容なため、意外とオフラインのデータ活用ができる土壌があるのではないかと。そういうところへの挑戦というのもあります」  しかし、いくら未知の可能性があるとはいえ、日本社会ではオフラインデータのようなセンシティブな情報が収集、活用されることは悪い意味で注目集めることが多いようにも感じる。遠野氏曰く、そこには深く根付いたオフラインデータへの誤解があるのだという。 「本実験は、私生活を映した動画を売買するというと、センシティブな案件のように捉えられがちですが、実際にはGoogleの検索エンジンのしていることの延長線上にあるんです。私たちが検索エンジンに向かって入力した検索履歴には、自分の趣味嗜好や、人には言えない悩みだったりが少なからず反映されています。そしてそのデータは企業間で取引され個人向けの広告に利用されている」  GoogleやYouTubeのような一部のWEBサービスを、ユーザーは無償で利用できるのと引き換えに、検索窓に入力したごくプライベートな情報を企業へ提供している。そして、それはある程度のITリテラシーを持つ若い世代であれば当然理解していて、利便性と引き換えにそれを許容しているのだ。 「Googleのようなデータの運用方法がある、という事実を改めて問題提起し、そうであれば今回の実験のオフラインデータも同じように活用していいんじゃないのか、もしくはそれがいいっていう人はどういう属性なのかを明らかにする。つまり私生活データというセンシティブで、タブーといわれている領域が本当にタブーなのかを社会に問いかけるという意義が本実験にはあります」
次のページ right-delta
便利さの裏にあるリスク
1
2
3
おすすめ記事