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「月13万円で自宅に1ヶ月間監視カメラ設置」という異例の社会実験。情報の買い手と売り手を直撃

「私生活データすべてと金銭の等価交換は実現しうるのか。」  この命題を証明するためと銘打った、株式会社Plasmaが10月28日に発表したプレスリリースは瞬く間にネット上で話題になった。その内容は自室にカメラを設置して1か月の動画データを提供する代わりに、生活保護費と同等の13万円を支払う実験を行うというもの。リリース発表後にはネット上ですぐさま賛否両論が巻き起こり、物議が醸された。  この社会実験の名前は「Exograph」。実験の概要を簡単に説明しよう。  1311人の応募者の中から選定された、4人の被験者の自宅には1か月間カメラが設置され、撮影された映像に対して20万円(当初発表されていた13万円から増額)の報酬が支払われる。人物の表情にマスク処理が施されるため、個人の特定は防がれるものの、1か月の間に自室で行われた入浴以外のすべての私生活は映像記録としてデータ化され売買の対象とされる。ちなみに被験者の私生活データはPlasmaに買い取られた後、企業や有識者へその販売価値をヒアリングするために使用される。実際に企業へPlasmaからデータが売買されることはないとのことだ。  日刊SPA!編集部では今回、この前代未聞の社会実験に携わる二人にインタビュー。一人は株式会社Plasmaの遠野宏季代表取締役。もう一人は実際に今回の実験に参加する被験者の一人だ。インタビュー当日は被験者の自宅にカメラを設置するという場面からスタート。企画者と参加者、二つの視点から本実験について話を聞いた。
取り付けられたカメラ

カメラや配線が部屋のいたるところに取り付けられた

被験者インタビュー。実験参加への志望動機とは

 被験者のAさん(仮名 年齢非公表 男性)はIT企業に勤務するシステムエンジニア。年収は約450万円。参考までに、厚生労働省が発表している賃金構造基本統計調査によると、全職種の平均年収は454.5万円。彼の年収とほぼイコールとなっている。
被験者Aさん

被験者でシステムエンジニアのAさん。年収は約450万円だという

 そもそもの「Exograph」を知ったきっかけ、そして応募動機についてAさんは以下のように語った。 「Twitterのタイムラインで実験概要のツイートが流れているのをたまたま見たことがきっかけです。試みとして結構面白そうだなっていうのと、単純に何もしないのに20万貰えるのはすごいと思って。あと実は、今年度中に結婚を予定していまして20万円貰えるならちょうど結婚費用の足しになるなと考え、申し込みました」  好奇心半分、金銭的理由半分で実験に応募したAさん。本実験参加までの採用プロセスは、アンケートへの回答とビデオ通話での面接という2つのプロセス。上記の志望理由を伝えた彼だったが、とんとん拍子で話は進み、無事被験者として採用されることになった。  しかし、表情はマスキングされ個人の特定がされないとはいえ、私生活のほぼすべてが撮影されるという実験の特殊性に対し本当に抵抗はなかったのだろうか。 「個人的には全然抵抗はなくて。どうせ自分の私生活を撮られても大して面白くもない情報ですし、それでお金になるんだったらいいかなというのが正直なところです。ですが、個人を特定された情報が万が一外部に流れてしまった場合、自分一人であれば今のところ特に問題はありませんが、これから結婚も控えていますので、周囲にも迷惑をかけかねないと思うと心配ではありますね」

カメラに映ってしまう意図しないリスクについてはどうするか

 個人的にはプライバシーの金銭トレード自体に抵抗はなく、むしろ歓迎していると語るAさん。だが、周囲への配慮を考えた結果、母親と妹、そして婚約予定の彼女には本実験への参加を最低限伝えたそうだ。  今回のように、社会的なリスクを伴う実験に参加する際、こうした未然のリスク回避は非常に重要だと考える人も少なくないはず。ほかにも、PCのパスワードといった個人情報が意図せずカメラに映りこんでしまうといった可能性は充分に起こり得るだろう。そうしたリスクについてAさんはどういった対策を考えているのだろうか。 「それは……指摘されて初めて気がつきました。いつもだったらたぶん無警戒にPCのパスワードを入力してしまうので、カメラの角度を見て映らないところでログインするくらいしか今のところ対策は正直思いついていないですね。ですが、結局は打たざるを得ないとは思うので。なるべく手元の動きが見えないよう工夫はしようかなと」  実験への参加を表明するからといって、プライバシー保護に対する意識が希薄であるとは一概にいうことはできないだろう。しかし、今回の被験者からは個人情報全般に対するある種の無頓着さを感じずにはいられない。はたして、Aさんにとって個人情報とはどれほどの価値があるのだろうか。本実験へ参加する下限の報酬と合わせて彼はこう語る。 「自分個人の考えとしては、私の日常生活のデータはそれほど価値があるものではないと思っているので、まあ、それなりのお金に変わるのだったらいいかなぐらいの感覚ですね。1か月で5万って言われたらちょっとさすがに安いかなと思いますが、下限だと10万くらいなら売ってもいいかなと思えるかもしれないです。今回、たまたまのスタートが20万だったからこう言っているだけかもしれないですけど」  Aさんに限った話ではなく、人は誰でも自分の個人情報に適切な値段をつけることができないのかもしれない。なぜなら、個人情報には今まで適正価格というものが存在していなかったからだ。だが、仮に、プライバシーの売買が今後本格化した場合、本実験で設定された20万円という金額が、個人情報1か月ぶんのデファクトとなり得るのだろうかという疑問に対しては、当実験はひとつの成果を残せるだろう。
バスルーム

浴室内にカメラはつけられないが、バスルームには設置された

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私生活の個人情報をどう活用するか?
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