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「月13万円で自宅に1ヶ月間監視カメラ設置」という異例の社会実験。情報の買い手と売り手を直撃

遠野氏が語る価値観、サービスと人間の関係について

 今回の実験で既存のデータ活用の仕組みに一石を投じようとしている遠野氏。サービスと人間の関係について彼自身はどういう思いや価値観を持っているのだろうか。 「この実験を立ち上げる前から自分の中では、人類全体で情報だとかリソースを上手く最適に使いあおうよ、使いあったほうがいい、という思いがあります。つまりデータって今はそれぞれのデータベースごとに分断されていますよね。それをオンラインとオフライン含めて統一し、みんなで上手く融通しあえたほうが、無駄も減るでしょうし、個人の欲求を満たすものが提供しやすくなって、社会にとって都合がいいと思うんですよ」  人類全体でのリソースの最適化。ポジティブな響きではあるはずなのに、監視国家というイメージも同時についてくるような奇妙な感じがする。勿論、あくまで遠野氏は多様な生き方の1つの選択肢としてこの提案をしているに過ぎず、データをシェアしたい人はシェアし合えばいいし、したくない人は無理に全員一律でやる必要はないという。 「今回の『Exograph』の被験者もそうですが、リスクと引き換えに、メリットもリターンも彼らにはあるわけで。たとえば車を利用することによって事故するリスクもあるけど便利になるから使っている人もいれば、それが怖いから使わないって人もいる。きちんとユーザーがリターン、メリット、リスクも理解したうえでサービスを利用するのが大事ですね」  サービスを提供する企業とそれを利用するユーザーがフェアな関係にある、それはビジネスが行なれるうえでの1つの基本原則なのは間違いない。その点について遠野氏はどう考えているのだろうか。 「『Exograph』はきちんと説明していますが、たとえばFacebookのような、無料で使えて裏でプライベートなデータを企業に流している一部ウェブサービスは、メリットとかデメリットをそこできちんと説明していないわけで。そこに問題があると考えています」  プライベートなデータを提供してもらう以上は公明正大なやりとりが必須。「Exograph」はオープンに取得したデータをどう社会に向けてアウトプットしていくのか。今後の展開次第で、社会からの評価は左右されるだろう。 【遠野宏季(Enno Hiroki)】 2014年に京都大学を卒業後、同大学院に入学。専門は化学だったが、ITの分野で起業するために休学。2016年8月に株式会社Ristを立ち上げ、製造業・医療分野でのAI画像検査システムを開発し2018年の12月末に同社を京セラグループに売却。翌年の2019年11月1日に今回新たに株式会社Plasmaを立ち上げた。 <取材・文/東山星人 撮影/藤井洋平>
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