更新日:2023年05月15日 13:18
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<中森明夫×島田雅彦対談>自分を徹底的に微分して真実を見極めることで、 私小説は普遍的な物語になりうる

多義的な価値観で生きていくことで人生は楽になる

中森:『青い秋』に書き忘れたんですが、僕が新人類として世に出たとき、いちばんかわいがってくれたのは、文化人類学者の山口昌男さんだった。島田さんが在学していた東京外国語大学の教授でもありました。 島田:大学の講義はしていなかったんですけれどね。 中森:山口さんから言われたのは「Boys be ambitious(ボーイズ・ビー・アンビシャス)、少年よ大志を抱け」ではなく、「Boys be ambiguous(ボーイズ・ビー・アンビギュアス)、少年よアンビギュアスたれ」。「ambiguous」は「両義的、多義的な」「あいまいな、不明瞭な」という意味ですが、それこそが文学の課題ですよね。 島田:僕は大学の教員でもありますが、あいまいなものが許されない的な風潮になってきていて、教育の現場で文学は抑圧されています。しかし、もともと「我思う、ゆえに我あり」のデカルト以来、サイエンスが解消できないものを哲学や文学が担ってきた。時代はますますサイエンスが万能になってきていますが、だからこそ、これまで以上に文学は必要とされている。 中森:今は何でもすぐ「最適解」を求めすぎなんです。 島田:そういう打ち出し方自体がプレゼンになっていて、経済原則、業界原則が働いている(笑)。 中森:結局、「空気を読まない」という空気をまた読んでしまう。そんな凡庸な最適解にとらわれず、好き勝手しながらも、多義的な価値観で生きていくことで人生は楽になる――僕らの作品を読んでそう思ってもらえたらうれしいです。 ●島田雅彦 ’61年生まれ。作家、法政大学国際文化学部教授。’83年、『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー。近著に『人類最年長』(文藝春秋刊)などがある ●中森明夫 ’60年生まれ。作家、アイドル評論家。80年代、新人類の旗手として注目される。純文学処女作『アナーキー・イン・ザ・JP』は三島由紀夫賞候補に 取材・文/羽柴重文 撮影/尾藤能暢
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