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映画監督・中村真夕「本当の愛国者とはどういう人か知りたくて、鈴木邦男さんを撮った」

新右翼団体・一水会の元代表で、新右翼の教祖と呼ばれた鈴木邦男氏。一貫して愛国主義を貫きながらも排外主義的な右翼とは一線を画し、左右にこだわらない政治活動を続けてきた。『SPA!』では94年10月から01年6月までの7年8か月にわたりコラム「夕刻のコペルニクス」を連載し、赤報隊事件や新右翼スパイ粛清事件にまつわる衝撃の“事実”を発表して、大きな反響を呼んだ。現在もアグレッシブに活動を続けている鈴木氏だが、彼の活動を追ったドキュメンタリー映画『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』が現在公開中だ。なぜ、いま、鈴木邦男を撮ろうと思ったのか? 中村真夕監督に訊いた。

60年代、70年代を疾走していた人たちを記録しておかなければ、この時代が忘れられてしまう

――鈴木さんは、監督の父親である詩人・正津勉さんともお知り合いですよね。 中村:父が日本ジャーナリスト専門学校で講師をしていたとき、鈴木さんも教えていたんです。それで、私も面識はありましたし、何となく、どんな方かもわかっていました。それが、5年前、『ナオトひとりっきり』(福島第一原子力発電所の事故後、置き去りにされた動物たちの世話をし続けた松村直登さんを追った中村監督によるドキュメンタリー作品)の上映トークショーにゲストとして登場していただいて、そこから親しくなっていったんです。 ――それで、なぜ鈴木さんのドキュメンタリー映画を撮ろうと思ったんでしょうか? 中村:12年に、若松孝二監督が交通事故で急死されました。しかし、誰も若松監督のドキュメンタリーを撮っていなかった。それが、すごく残念だったんです。 ――昨年に公開された、若いころの若松監督を描いた映画『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督)は話題になりました。 中村:60年代、70年代という激動の時代を生きた人たちは高齢になってきています。いま、この時代を疾走していた人たちを記録しておかなければ、この時代が忘れられてしまうかもしれない。鈴木さんを追ったドキュメンタリー映画がないことを知って、時代の証言として、撮ろうと思ったんです。 ――鈴木さんは96年から7年間、『SPA!』でコラム「夕刻のコペルニクス」を連載していました。ただ、この連載では、生い立ちや政治活動を始めたきっかけ、時代との関わりなど本人のことには、ほとんど触れていなかった。けれど、今回中村監督が撮った『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』は真っ正面から鈴木さんを描いています。 中村:鈴木邦男さんの人生を追っていくと、戦後という時代の流れが見えてくるような気がしました。 ――高校時代、同い年の山口二矢が社会党の浅沼稲次郎委員長を刺殺・浅沼稲次郎を刺殺したのをテレビで見て政治に目覚め、早稲田大学時代は民族派として左翼と闘い、大学院時代には日本会議の前身、民族派学生組織・全国学生自治体連絡協議会の初代委員長に就くも1か月で失脚、産経新聞社時代には早稲田の後輩、森田必勝が割腹自殺した三島事件に衝撃を受けて、楯の会(三島由紀夫が結成した民間防衛組織)元メンバーたちと一水会を結成、政治活動を再開……映画にも描かれていますが、戦後史に深く関わっていますね。 中村:鈴木さんは、戦後史を生きながら、教科書に載っていない「歴史」を目の当たりにしているんです。

鈴木さんの一番の魅力は威張らないところ

雨宮処凛さんと鈴木氏

――現在も右、左を問わず、さまざま人たちと関わっています。映画を観て、とくに気になったのは、鈴木さんのサポーター、“邦男ガールズ”。監督もその一人ですね。 中村:いつの間にか、30代、40代の女性たちが鈴木さんのサポーターとして集まってきて……“邦男ガールズ”と呼ばれるようになりました。 ――松本智津夫元死刑囚の三女、松本麗華さんも含め、みなさん、鈴木さんをすごく慕っていますよね。 中村:鈴木さんは見た目はかわいいし(笑)、とぼけたところも魅力的ですが……。何にいちばん惹かれるかというと、威張らないところです。私たちの世代の女性は、父親や上司をはじめ、おじさんたちが無意味に威張って、「男を立てろ」とか言われて、うんざりすることが多い。でも、鈴木さんにはそういうところが一切なくて、逆に、自分はバカだから、踏み台にしてよ」と下手で接してくれる。松本麗華さんは「癒やされる」、雨宮処凛さんは「年老いたハムスター」と言っていましたが、そのとおりなんです。 ――鈴木さんよりも少し下の“団塊の世代”はとくに威張る人が多い。学生運動上がりのセクト主義みたいなものからか、すぐにマウンティングしてきます(笑)。 中村:今作の挿入歌『ふざけるんじゃねえよ』の頭脳警察、PATNTAさんは団塊の世代ですけれど、すごくやさしくて、そういう感じではありませんけどね。 ――鈴木さんは民族派の学生運動で左翼と激しく闘っていたし、頭脳警察は過激な歌詞、パフォーマンスで知られていました。 中村:「♪ふざけるんじゃねえよ てめえの善人面を ふざけるんじゃねえよ いつかぶっとばしてやらあ」――『ふざけるんじゃねえよ』の歌詞は鈴木さんの生き方に重なるような気がして、挿入歌として使わせていただいたんです。 ――すごく効果的に使われていますね。 中村:頭脳警察は反体制のイメージが強いので、この曲も左翼系と思っていたんです。でも、中島貞雄監督のヤクザ映画『鉄砲玉の美学』の主題歌だったんです。まったく左翼系ではなかった(笑)。 ――いまは鈴木さんも“右”ではありませんよね。映画に登場する新右翼は、一水会代表の木村さんくらいです。 中村:日本会議の椛島有三さんや衆議院議員の稲田朋美さんにもオファーしたんですけれど、結局、断られました。それに、パブリシティも右系のメディアにはほとんど協力してもらえなかったんですよ。 ――鈴木さんが連載していたころの『SPA!』を小林よしのりさんは「価値相対主義に堕落した」と批判していましたが、鈴木さんはいまもいい意味で価値相対主義なところがある気がします。 中村:左、右にとらわれないで、あえて空気を読まず、我が道を進んでいますからね。そういうところは、映画監督の森達也さんや新聞記者の望月衣塑子さんに似ているところがあります。森さんは望月さんのドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント』を撮りましたが、二人と鈴木さんは似ている。本人同士は否定しているけれど、同気相求にして同属嫌悪なのかもしれません(笑)。 ――中村監督が撮ったドキュメンタリー『ナオトひとりっきり』の松村直登さんと中村監督も似ているところがる気がします。 中村:福島第一原発20km圏内の故郷を愛し、そこで暮らす松村さんは、空気を読まず、我が道を進んでいます。 ――支援者は左陣営が多いようですが、松村さんこそ、本当の愛国者のような気もします。3・11以降、むやみに日本はすごい!と主張する愛国主義が幅をきかせていますが……。 中村:本当の愛国者はどういう人なのか知りたくて、鈴木さんを撮ったところもあります。ネット社会の匿名性のなか、ネトウヨは過激な主張、他者へのバッシングが横行していますが、鈴木さんたちは現実世界の中で、他者との直接対話を大事にしていると思います。
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「直接話し合おう」という鈴木さんの姿勢に新鮮さを感じた
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『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』は現在、東京・ポレポレ東中野で公開中 http://kuniosuzuki.com/
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