仕事

「退職代行を使うヤツは弱い」と言う人は、ブラック企業の現実を知らない

退職トラブルで適応障害や顔面麻痺になった知人

 私の知人にも、退職を申し出たことで、会社とトラブルに発展してしまった人は少なくありません。「会社を辞めるなら、今まで支給した交通費をすべて返せ」と言われたり、長期間にわたって陰湿な嫌がらせを受けたり、「同じ業界に転職できないように根回ししてやる」と脅されたケースも知っています。  被害を受けた知人たちの精神的な負担は相当なもので、そのとき発症した適応障害に今も苦しんでいる人や、顔の神経が麻痺してしまったことで、10年以上続けてきた管楽器が吹けなくなってしまった人もいました。 退職願と悩む人物の手元 ここまで追い込まれても、尊厳を踏みにじられても、加害者に通すべき「筋」とは一体なんでしょうか。理不尽な攻撃でボロボロになってまで、会社から逃げることも許されないのでしょうか。

迷惑がかからないよう務めるのはもちろん大事だけれど

 退職をめぐったトラブルでは、会社側は問題を表沙汰にしたくない思惑があります。そのため、話し合いにおいて「第三者」に介入してもらうのは非常に有効な解決手段です。  もちろん退職に際して、これまで一緒に働いてきた仲間になるべく迷惑がかからないよう務めることは最低限の礼儀であると思います。できれば退職の挨拶もしておいた方がいいですし、引き継ぎを済ませてから会社を去るのが望ましいでしょう。しかし、どうしても事情があってそれが難しいのであれば、誰かに助けてもらうことがあってもいいのではないかと思うのです。 「逃げだ」と言われようとも、「筋を通していない」と言われようとも、誰にも助けを求められずに心身を病んでしまう社会より、自分にとってもっとも負担の少ない方法を選択できる社会の方が、私はずっといいと考えています。

自分もいつ「助け」が必要になるか……

 退職代行サービスについては賛否両論ありますが、「一人では手に負えないようなトラブルに見舞われてやむなく利用する人」と、『「面倒臭いことは人任せにしたい」という理由で利用する人』を同列に語るべきではないですし、何も退職代行サービスの利用自体を十把一絡げにして、善悪の判断を下す必要はないでしょう。  自己責任論が強く叫ばれる日本社会においては、「誰かに頼ること」がたびたび非難されがちです。そして、非難されている人を見ていた大勢の人たちはそのたびに、誰かに頼ることがますます怖くなっていくのだと思います。しかし、今は一人で生きていられても、自分がいつ、誰かの助けが必要な状態に陥るかはわかりません。  自分の価値観に合わないものを理解することは、いつか未来の自分を救うことになるかもしれないのだと、年齢を重ねるごとにつくづく感じます。 <文/吉川ばんび>
1991年生まれ。フリーライター・コラムニスト。貧困や機能不全家族、ブラック企業、社会問題などについて、自らの体験をもとに取材・執筆。文春オンライン、東洋経済オンラインなどで連載中。著書に『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声』 twitter:@bambi_yoshikawa

年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-

この問題を「自己責任論」で片づけてもいいのか――!?
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