更新日:2023年05月24日 14:30
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新型コロナでテレワークが急拡大。“出社不要”は本当に定着するのか?

テレワークを導入しない選択肢は日本企業にない

 それでは日本でテレワークが定着するために何が必要なのか。 「まず、テレワークは特別な働き方だ、という認識をやめるべきです。労務時間だけではない新たな評価基準を設け、テレワーカー、非テレワーカーに関係なくそれを適用することが望ましいです。仕事の定量化ができている先進的な企業では、たとえ在宅で短時間労働であっても生産性の高い人は給与も上がり、無駄な労働は少なくなっています」(比嘉氏)  比嘉氏によると、労働時間だけではない基準で人事評価を行っている企業はすでにいくつも存在する。テレワークを実施したある企業の人事部では、仕事の進め方について部下と上司がやりとりしたメールを分析。売り上げなどの目に見える結果だけではなく、どんな判断をしながら仕事を進めたかのプロセスも評価に含めているという。もちろん、それには管理職の能力が大いに問われることになる。 「テレワークが普及すると、今の管理職は総取っ替えになるかもしれない。管理職はひとつの職種であって、処遇ポストではないので、年功序列ではなく管理能力の優れた人が担当するべきです。また、日本も欧米のように仕事の範囲を限定する職務限定正社員のような雇用形態を導入する必要があります。そうすれば仕事の管理や評価基準はより明確になり、テレワークもしやすいでしょう」(八代氏)
テレワーク

安倍首相の「全校一斉休校要請」により、子供の面倒を見ながらテレワークに励む父親の姿も(写真はイメージ)

 さらに、長期的に見れば採用の方法も変えざるを得ない。 「専門職的な雇用を導入するためには、企業の部局ごとの採用になるはず。人事部が一括採用し、さまざまな部署をローテーションで経験させ『なんでもできるけどなんのエキスパートでもない人』をつくるシステムは、高度経済成長期の残滓でしかありません」(同)  どうやらテレワークは、本格的に運用され始めれば、日本の労働環境に一大変革を強いることになりそうだ。だがこの痛みに、いままで安穏としてきた労働者たちは耐えられるのだろうか。 「超少子高齢化を考えるとテレワークを導入しないという選択肢はあり得ません。通勤するのは難しいが経験のある高齢者をテレワークで利用したほうが企業にとってコスパがよく、ワーカーにも都合がいい。さらに、フリーランサーの比率が10年後には40%近くまで増えると言われています。そうなると彼らなしでは競争できなくなるので、テレワークは必須になるのです」(比嘉氏)  さらに八代氏は、地方創生の観点からもテレワーク導入は待ったなしだと指摘する。 「テレワークであれば地方でも都市と同じ仕事ができます。仕事を理由に地方を離れる人も少なくなるでしょう。そしてテレワークが普及すれば副業もしやすくなります。仕事内容が決まっている派遣社員は掛け持ちで仕事をすることも可能です。正社員という考え方も意味が薄れていくでしょう」  かくも大規模な変化を、残念ながら日本人は自力では達成できない。その結果が失われた30年だ。今回の「有事」である新型コロナウイルス騒動は、日本の働き方改革を後押しし、日本経済復活のきっかけとなったらいいのだが……。 【比嘉邦彦氏】 東京工業大学環境・社会理工学院教授。日本テレワーク学会会長や政府の推進委員を歴任。多くの企業の導入例を分析してきた 【八代尚宏氏】 昭和女子大学グローバルビジネス学部長。旧経済企画庁、OECDシニアエコノミスト、日本経済研究センター理事長などを歴任 取材・文/沼澤典史・野中ツトム(清談社) 写真/時事通信社 朝日新聞社 ※週刊SPA!3月10日発売号より
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週刊SPA!3/17号(3/10発売)

表紙の人/ 藤田ニコル

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