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大林宣彦監督が最後に選んだ“尾道ヒロイン”吉田玲の魅力に迫る

 故郷への愛に溢れた尾道シリーズをはじめ、数々の名作を世に送り出してきた稀代の映画作家・大林宣彦氏。映画ファンを熱狂させた大林ワールドの中でも特に支持されたのが、新人女優を起用した“瑞々しい少女”の描写だ。<尾道三部作>では、小林聡美(『転校生』1982年)、原田知世(『時をかける少女』1983年)、富田靖子(『さびしんぼう』1985年)を、<新・尾道三部作>では、石田ひかり(『ふたり』1991年)らを主演に抜擢し、以降、実力派女優への道筋を作った。

映画『海辺の映画館-キネマの玉手箱』で、ヒロインを務める吉田玲(18)

 その大林監督が20年ぶりに故郷・尾道に戻り、全身全霊を捧げて撮り上げた最後の作品『海辺の映画館-キネマの玉手箱』。戦争への辛辣なメッセージを盛り込んだ自身の集大成といえる本作で、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子らと同じメインキャストに大抜擢されたのが、今回が本格的な商業映画デビューとなる吉田玲(18)。中学生の時に出演した自主制作映画『隣人のゆくえ あの夏の歌声』(2017年)で大林監督のハートを射止めた逸材だ。“最後の尾道ヒロイン”として大きな注目を集める彼女の魅力とは? インタビューを通して、その本質に迫ってみた。 ※本インタビューは、大林監督がご存命だった3月中旬に行われた。

大林監督の第一印象は「とても優しいおじいちゃん」

 プロデューサーでもなく、キャスティングディレクターでもなく、大林監督から直々にラブコールを受けたという吉田。最初はあまりピンと来なかったそうだが、「いろいろ資料を調べたり、作品を観たり、周りの皆さんのお話を聞いているうちに、『凄い監督にオファーをいただいたんだ!』という実感がどんどん湧いてきました」と当時を振り返る。頭に刷り込まれた“巨匠”の文字。当然、初対面の日は緊張MAX。ところが目の前に現れたその人は、吉田いわく、「笑顔がとても優しい素敵なおじいちゃん」だった。

吉田玲に向けて、拍手をおくる大林宣彦監督

 吉田が演じたのは、閉館する海辺の映画館「瀬戸内キネマ」の最終日、『日本の戦争映画大特集』と題したオールナイト興行にやってきた女子高生・希子(のりこ)。映画の中へタイムリープし、様々な時代の戦争映画をリアルに体感する異色のヒロイン役だ。「脚本を読ませていただいたときは、正直、凄く難しい役だなって思いました。あまりにも奇想天外で、果たして私に演じられるだろうかって。しかも、大林監督からは映画全体の骨子については何も説明がなく、ただ一言、『役を演じるのではなく、役を生きてください』とだけ。プレッシャーは相当なものでした」。  ところが、戦争にまつわる歴史については、打って変わってとても熱心に説明をしてくれたという吉田。「例えば、『里の秋』という歌は、『国民を悲しませないように国家が作ってラジオで流していたんだよ』とか。そういった監督の言葉をヒントに、物語の背景にある秘話から感じたことに思いを寄せたり、表情に出してみたり、その場その場で自分なりに考えて、役を生きようと努力しました。ただ、個人的には納得のいかないお芝居もたくさんあって、もっともっとやれたんじゃないかと…少し悔しい気持ちも残っています」。大林監督の期待に十分に応えながらも、この貪欲さ。吉田を選んだ本意がここにあるのかもしれない。

大林宣彦監督とのやり取りを振り返る吉田玲

 また本作では、多彩な映画表現が採り入れられ、吉田は、希子だけでなく、映画の中の様々な役に扮し、ミュージカル、時代劇、ラブロマンス、アクションなどにも挑戦している。「1本の映画の中でいろんな役を演じられるのは、とても楽しかったし、勉強にもなりましたが、その分、多くのスキルを身に付けなければならず大変でした。撮影に入る前に東京に何度も足を運んで練習しましたし、休みの日も、撮影中も、合間を見ては自主練あるのみ。歌やダンスは習っていたので比較的スムーズに入っていけたのですが、時代劇の所作やアクションは苦戦しましたね。中でも一番大変だったのが長刀(なぎなた)のシーン。動きそのものよりも、戦う顔、敵に立ち向かう顔を表現することが本当に難しかった」と述懐した。
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最後の“尾道ヒロイン”は、女優を目指して絶賛就活中
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●タイトル:『海辺の映画館-キネマの玉手箱』
●公開日:7月31日(金) TOHOシネマズシャンテほか全国公開

監督:大林宣彦
出演:厚木拓郎 細山田隆人 細田善彦 吉田 玲(新人) 成海璃子 山崎紘菜 常盤貴子
製作:『海辺の映画館-キネマの玉手箱』製作委員会
製作協力:大林恭子
エグゼクティブ・プロデューサー:奥山和由
企画プロデューサー:鍋島壽夫
脚本・編集:大林宣彦
脚本:内藤忠司/小中和哉
音楽:山下康介
撮影監督・編集・合成:三本木久城
VFX:塚元陽大
美術監督:竹内公一
照明:西表燈光
録音:内田 誠
整音:山本逸美
配給:アスミック・エース 製作プロダクション :PSC
(c)2020「海辺の映画館-キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
HP:https://umibenoeigakan.jp

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