恋愛・結婚

42歳日雇い男には別れた妻と二人の子供がいた…離婚を決意した理由

脳裏にフラッシュバックするソムの言葉

 福田君とはまた別の飲食店への日雇い派遣で再び顔を合わせることになった。休憩時間中に彼は話しかけてきた。 「こないだ離婚届を提出してきたよ。もう愛のなくなっていた相手とはいえ、離婚って本当に落ち込むよね。ああ、これで終わりなのかあ……って」 「わかるよ。僕も同じだった」 「そういえば、小林君は子供いるんだっけ?」 「いるよ、2人」 「小林君が育ててるの?」 「いや、2人とも向こうが引き取ってる」 「は? それっておかしくない? 奥さんの浮気が原因で離婚したんだろ。それなのにどうして子供を取られてるんだよ」 「しょうがないよ。僕の稼ぎで子供2人も養っていけるわけないし」  福田君はふうッと小さくため息をつき、僕の肩を軽く小突いて言った。 「頑張れよ」 「……うん」  日本に本帰国してから健人と絵里に会ったのは一度きりだった。離婚にまつわる諸々の手続きを終わらせるために都内でソムと会ったときに彼女が連れてきたのである。そのとき、2人はまだ日本語をあまり話すことができなかった。これから日本の小学校に入れるらしいのだが、これでうまくやっていけるのだろうかとひどく心配だった。  僕が子供を引き取ることも考えた。現在の収入では厳しいが、小説が売れるようにさえすれば……。しかし、そう意気込んで原稿に向かっていると、ときおり、僕のそんな思いを打ち砕くかのようにソムから言われたあの言葉が脳裏にフラッシュバックする。  どうせそんなのを書いたってなんにもならない……。  それでいつも僕のキーボードを叩く手は止まってしまう。そしてネットカフェの薄暗い個室ブースの中で体を小さく丸め、心にズシリとのしかかる黒く澱んだ感情にただ唇を噛みしめるのである。<文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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