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韓国をオーディション大国に導いた『スーパースターK』の背景とは?

番組で勝ってもデビューできないジレンマ

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※写真はイメージです

「『スーパースターK』の視聴率は始まった当初で2%くらい、シーズン1が終わる時点で9%くらいだったのかな。でも、ケーブルでこの数字っていうのは超驚異的ですよ。ケーブルの2%というのは、肌感覚的にいうと地上波の20~30%くらいに相当するイメージ。まさにモンスター番組だったんですよね」(同)  加えて大きかったのは、『スーパースターK』は記事になりやすかったということだ。単なる歌の実力だけだったら、「AさんのほうがBさんより上手です」で話は終わるはず。しかし番組が人生のドラマ部分を強調したことで、記事は自然と人々の好奇心を刺激するスキャンダラスな内容になる。  Mnetや流行の音楽に興味がない層だって、新聞やネットで頻繁に記事になっていたら流れは追うだろう。相乗効果で音楽なんて興味がない一般層も番組を観るようになった。 「『スーパースターK』の人気が爆発したことで、地上波の番組制作陣もすごく刺激を受けました。会社の上層部は自局のプロデューサーたちを呼びつけては、“なぜお前らは地上波のくせに『スーパースターK』みたいな番組が作れないんだよ!”と叱咤激励。“だらしねぇな!お前らもごたくなんて並べず『スーパースターK』みたいな番組を作ればいいんだ!”という方向に進んでいった。  それで雨後の筍みたいに『スーパースターK』のパクリ番組が出てくるんですけど、その中で成功したのがSBSの『Kポップスター』というわけです」(同)  では『Kポップスター』の勝因は何だったか? 韓国の3大芸能事務所といえばSMエンターテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントだが、『Kポップスター』にはJYPのパク・ジニョン社長(当時)とYGの創業者、ヤン・ヒョンソク氏が審査員として登場していた。SMの創業者であるイ・スマンが番組に出てくることこそなかったものの、その代わりにSMからはBoAが出演した。つまりバックアップ体制が完璧だったのである。 「実を言うと、そこは成功したMnet『スーパースターK』にとって唯一の弱点だった。あの番組で優勝したら歌手になるわけだけど、具体的にはマネージメントをCJグループがまず手掛ける。そして他の事務所が契約したいと言ってきたら、マネージメント権を売るかたちを取る。CJグループも芸能事務所を持っているし、Mnetにも音楽番組はあるから、優勝者はこれで歌手として軌道に乗るだろうと踏んでいたんです。  ところが蓋を開けてみると、『スーパースターK』の優勝者は地上波3局の音楽番組に出られないという現実が待っていた。まぁ嫌がらせですよね。『お前らはMnet出身。なんで俺たち地上波がお前らに協力しなくちゃいけないんだよ』という嫉妬みたいな感情が現場で渦巻いていたんだと思う。  その結果、『スーパースターK』という番組でありながら、出身者は誰もスーパースターになれなかった。まぁスターくらいにはなれたかもしれないけど、“スーパー”はつかなかった。でも、これが芸能界の現実ですよ。『Kポップスター』なら3大事務所に入ることもできるし、プロモーションのお膳立ても完璧。『もう任せておいてくれ!』と盤石の体制だったわけです」(同)  参加者の傾向も『スーパースターK』と『Kポップスター』では違っていた。『スーパースターK』は10代~20代のアイドルっぽい若者だけでなく、もっと年齢が上の実力派や個性派も対象。いわゆる「アーティスト」と呼ばれるような歌手が出演していたのである。  それに対して後発の『Kポップスター』はマニアックな音楽性を切り捨てて、もっとポップ寄りでアイドルに特化して競う内容だった。たしかに地上波ということを考えれば、そちらのほうが伝わりやすいという面はあったのだろう。 「3大事務所や地上波のバックアップはついている。視聴率も高かった。だけど結果的には『Kポップスター』からも真のポップスターは生まれませんでした。というのも、この頃になるとサバイバル系オーディション番組が飽和状態になっていて、視聴者も食傷気味でしたからね。いろんな局のいろんな番組から優勝者があまりにも出すぎて、誰が誰だかわからなくなっていたんです。  『スーパースターK』シーズン1の優勝者、ソ・イングクは韓国ではそれなりに有名なんですけど、シーズン4の優勝者・ロイキムとなると『名前は聞いたことあるけど、曲は知らないな』とか、そんな認識で止まっている人が大半だと思う」(ピョ・ジェシク氏)  もうこうなるとジャンルとしては衰退していくしかない。サバイバル系オーディション番組はアイドルではなく、他のテーマを取り扱うようになっていった。
出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。
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