更新日:2020年08月05日 16:57
エンタメ

韓国をオーディション大国に導いた『スーパースターK』の背景とは?

肉体労働者がバトルを勝ち上がる

スーパースターK

100万人以上が応募する『スーパースターK』は日本でも予選が開催されている。BSジャパンで視聴することができる

 サバイバル系オーディション番組が乱立する韓国だが、その礎を築いたのは2009年から始まった『スーパースターK』(Mnet)とされている。韓国では昔も今も「将来なりたい職業」アンケートで「歌手」が上位に入るが、そのニーズにテレビ局が応えた格好だ。  しかし歌手志望の子供たちだって可能なら大手事務所に入りたいし、地上波にも映りたい。当初、『スーパースターK』は「よくわからないケーブルテレビのオーディション番組」と見なされていた。番組スタッフが「参加希望者が集まらないのではないか?」と不安を抱えたのも当然である。そもそもMnetの視聴率など微々たるもの。そこで募集をかけたところで、開催すら知られないで終わるだけだ。韓国芸能界の動きを韓流ブーム前から見ていたJAKE社長のピョ・ジェシク氏が背景を解説してくれた。 「そこでどうしたかというと、映画の力を利用したんですね。CJグループは韓国で一番大きい映画館チェーン・CGBを持っていますから。映画が上映される前に流される広告部分で、『スーパースターK』参加者を執拗に募ったんです。そもそもCJグループの中で一番の人気チャンネルは音楽系のMnetではなく映画を放送するOCNですし、そういう土壌は会社としてあった。その結果、応募者が70万人くらいに膨れ上がって、番組はとてつもないスケールでスタートすることになったんです」(ピョ・ジェシク氏)  70万人も集まれば、歌が上手な志望者だけでなく、強烈な個性を持った人物も大勢現れる。そこに目をつけた番組プロデューサーは、単純に技術を競わせるオーディション番組というよりも“生き様”にフォーカスして番組を作ることにした。家族関係の苦悩、これまでの挫折、絶対に歌手にならなくてはいけない理由……そういったドラマ要素に視聴者は感情移入していったのである。 「これは日本でも同じだと思うけど、“歌の実力は完璧でも、ルックスがひどいからデビューできない”というケースが往々にしてあるんですよね。『スーパースターK』はそういう人にスポットライトが当たる番組なんです。だから普通にそのへんの屋台で焼酎を飲んでいるような肉体労働者が勝ち残ったりもする。それまでの芸能界的な常識から逸脱した構成だったわけです。韓国オーディション番組の最大の特徴は、この“ドラマ性を強調する”というところにあるんですけど、『スーパースターK』からすべてが始まったと僕は睨んでいるんですよ。  だけどドラマ性を強調する番組作りというのは、結局、“過剰演出”に繋がっていく。つまり、やらせの問題ですよね。たとえば制作現場のトップにいる人が『この出演者は歌の実力もさることながら、興味深いバックボーンを持っているな。もっと尺を長く扱おう』と指示を出したとする。厳密には、もうこの時点で純然たるノンフィクションやドキュメンタリーではないんですよ。リアリティー番組とか言っておきながら、本当のリアルではない。これは韓国とか日本とかアメリカとか関係なく、テレビというメディアが抱えた構造的な弱点なんです」(同)  放送局にとって一番大事なのはオンエア中の視聴率だ。どの人物が歌手になって、その後、その人がどれくらい成功を収めるかなんて話としては二の次、三の次。目の前の応募者たちを利用して、どのように視聴者を引きつけるか? テレビマンたちは日夜そこに集中して仕事をこなしている。そこを徹底してやり切ったのが『スーパースターK』だった。番組は人気シリーズになっていったが、功罪の「罪」の部分も次第に大きくなっていく。
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番組で勝ってもデビューできない
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出版社勤務を経て、フリーのライター/編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆をおこなう。芸能を中心に、貧困や社会問題などの取材も得意としている。著書に『韓流エンタメ日本侵攻戦略』(扶桑社新書)、『アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実』(竹書房)。

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