「強み」がない人は採用側を徹底分析する
――でも、2人のように明確な「強み」がない人はどういう転職をすればいいですか?
moto:自分の強みではなく、採用側が求めることを徹底的に分析すればいいと思いますよ。僕はその会社のお金の流れを知るようにしています。どこからどういう風にお金が入っているのか、どういう部隊(営業やマーケ部門など)がいて、どのような商品を、誰に売っているのか。もし自分が社長になったらどういう戦略を描くか……など視座を高く持って想像する ことが大事です。
正直、「面接さえ突破すれば給料がもらえる」みたいな感覚でいるうちは、いいオファーはこない。面接はあくまで入り口であって入社することがゴールではない。年収500万円をもらうために、自分はどんな価値が提供できるかを考えなきゃいけないんです。
たいろー:新卒採用では、最初はほぼ全員「何もできない状態」なので、まずは配属で「置かれた場所」で最善を尽くすしかない。僕は最初、営業がやりたかったけど人事採用担当だったんです。でも営業も人事も扱っている商品が違うだけで、自分の会社や商品の魅力を抽出して、選んでもらうという意味では同じでした。
これまでの勤務先でも、面接官として自社の魅力を上手に伝えて人材を口説く「アトラクト」というスキルがあって。人事採用担当のときに身に着けた能力が10年越しで活きたんです。仕事のスキルって、そういう風にどこで繋がっていくか意外にわからないものなんですよ。だから今わかりやすい形で自分の強みが見つけられなくても、足元を見つめて探していくしかないと思います。
――新型コロナの影響で転職市場にも変化が起きています。転職希望者が増える一方で、求人は減っている。今の転職事情をどう見ていますか?
たいろー:まさに二極化ですね。リーマン・ショック時の比じゃないです。あのときは全体が低迷していましたが、今回のコロナ・ショックは景気の偏りがすごい。業界によっては売り上げが瞬間蒸発している一方、インターネット系のサービスはクラウドファンディングなど、恩恵を受けている領域もあります。業界ごと厳しい企業からは、転職せざるを得ない人たちが市場に出てきているけど、こういう時に限って求人が少ないんですよね。
moto:僕はコロナによって本質が見えてきた部分が大きいと思っています。無駄な部分が浮き彫りになった。「この人材いるんだっけ?」という疑問があったポジションがどんどんなくなっていますよね。企業の受付担当がiPadに変わったように、人以外で代替できる仕事はなくなりつつある。一方で、メルカリみたいな企業はコロナによって伸びているわけで。自分にはどんな価値があるのか?を考えられる人が生き残る時代になっているように思います。
――では今、採用を強めている業種はどういった分野でしょうか?
たいろー:やはり中心はITでしょうね。B to BのDX案件を手掛けるような会社はむしろ追い風ですね。業務改善系のシステム導入っていまいち進みが遅かった印象がありますが、それが今では全国的に一気にデジタル化を推し進める大義名分ができた。
――そのような業界で専門性を発揮できる人は転職でも強いですね。
たいろー:ただ、僕もわかりやすさからあえてIT業界という呼び方をしていますが、本当は、すべての業界がIT産業だと思います。「IT=インターネットサービスをやっている会社」という認識は、狭すぎる。人事労務用のクラウドサービスだって、建設業向けの業務用チャットサービスだって、その業界で職務経験を積んだ人が活躍しているはずです。
お客様はITに詳しくない人だとしても、だからこそ、その立場の苦しみや仕事の面倒臭さがわかっているほうが具体的な解決策を導き出せますし、強みになります。 例えば「たまたま人事に配属されたけど、やりたいことは他にある」と漫然と仕事をするんじゃなくて、その仕事の具体的な苦しみをわかったうえでITに詳しくなって業務改善をすると、いきなり市場価値が出てくる。その意味では、若くて業務経験が確立していない人でも、今後はITリテラシーがあるという意味で有利な気がするんですよね。
moto:キャリアはかけ算が大事ですよね。加えて、目の前の仕事だけじゃなくてクライアントがどんな会社なのかとか、自分のステークホルダーを見るのも結構大事で。例えば公務員の人と話していると「自分には強みがない」とか「単純作業ばかりしているから転職先がない」とか言うんですけど、例えば省庁を相手にするビジネスをしている会社からすれば、彼らは貴重な人材なんですよ。行政向けの営業は、一般的な営業とは少し毛色が違うので、そういうパイプを持っている人やカルチャーをわかっている人のニーズがある。
公務員として大きな成果がなかったとしても、自分が持つ経験にかけ算をする戦い方をすればいい。自分が持つ強みは働く人全員にあるはずなので「自分の経験が活かせるポジションを見つけること」が大事だと思いますね。
たいろー:そうですね。ドメイン知識というか、特定の業界構造をちゃんと知っているのって、実はかなり強みなんですよね。
――2人は様々な会社の人と交流していると思うのですが、ベンチャーに所属する人と大手に所属する人では、転職マインドにどんな違いがありますか?
moto:大手で働く人たちは、良くも悪くも、どこかで自分の会社の看板に頼っているところがありますよね。終身雇用が事実上、崩壊している時代でも、いまだに大手に入ったという部分にプライドを合わせてしまっている人も一定数いる気がします。
たいろー:保守的なマインドだと、どうしても「いかに失わないか」という思いが強くなっちゃうんですよね。人間は何かを得るよりも失うのを怖がる生き物なので。反対に、ベンチャーを渡り歩いていると、倒産したり、事業が伸びなければ損切りしなきゃいけないシーンにも直面するので、「失敗慣れ」じゃないですが、失うことを恐れるよりも積極的に獲得しにいく方向にマインドが向いている気がします。
moto:「大手に入った=ある程度の市場価値がある」みたいな考えはわからなくもないですが、こればかりは市場に自分を出してみないとわからないと思います。
たいろー:過去の転職市場ではまだ「不可逆性」が強かったですよね。大手A社からベンチャーB社には行けるけど、反対にベンチャーB社から大手A社は難しいみたいな。でも、今はすっかり景色は変わりましたね。スタートアップやベンチャー出身の人材が大手からスカウトされることも多い時代なので。
moto:結局、転職市場では「自分は何ができるのか」を語れることが大事なんですよね。小さな会社から大手に行けないということ自体が、本質的ではなかった。見るべきは社名ではなく、その人材自体の価値であるべきなんですよね。もちろん、大手のほうが採用ハードルも高かったりするので、社名がキャリアに加味されるわけですが。
まぁでも、最近は今まで転職回数がネックでエントリーすらできなかった大手企業も僕に声をかけてくれる時代になったので、少しずつ転職市場も変化しているように思いますね。
――最後に、「転職が怖い」という人はどう動くべきですか?
たいろー:今すぐ転職すべきだとはもちろん言わないですが、エージェントや企業との面談は定期的にしたほうがいいと思います。人間ドックとかがん検診と同じですよね。「自分は健康だと思ってるけど、何か悪い結果が出たら嫌だから知りたくない」みたいな状態は危険です。
moto:第三者に自分の評価をもらうのはとても大事だと思います。もしかすると「自分の市場価値が低い」という現実を知るかもしれないけど、それが現実なら、今から上げていけばいい。
たいろー:その「キャリア負債」みたいなものは、年を重ねれば重ねるほどどんどん溜まってしまい、どこかで爆発する んですよ。ツケを払わなければならない時は来るんです。だから、せめて今の自分が市場でどう判断されるは、一回は見たほうがいいです。
moto:転職を繰り返してきた身からすると、「知らないほうが怖い」って思います(笑)。転職することが怖いんじゃなくて、自分の市場価値を知らないほうが危ないし怖い。
――「自分の価値を知る勇気」ですね。
たいろー:はい。キャリアについての評価がどんな内容だとしても、それは一つの見解でしかないので。
moto:ある種の精神安定剤にもなると思いますね。「今の会社にいていいのかわからない」みたいな不安があるなら、「次にどんな会社に行けそうなのか」を知ればいい。それを知ることで今の仕事をもっと頑張ろうとか、次に行こうって思えるかもしれない。「転職するか/しないか」という判断は、第三者の評価を聞いてから考えたらいいと思いますよ。今の仕事とどう向き合うか考えるのは、その後でも遅くないです。
【moto(戸塚俊介氏)】
1987年長野県生まれ。主にSNSで転職や副業、年収に関する発信をしているサラリーマン。2019年に発売された著作『
転職と副業のかけ算』はAmazon総合・ビジネス書ランキング1位を獲得。副業ではブログ
「転職アンテナ」を事業化して会社を経営している。ツイッター(
@moto_recruit)
【たいろー(森山大朗)氏】
現在はスマートニュースのPMとして働くサラリーマン。新卒でリクルートで人事/法人営業を担当し、その後はベンチャーでのマーケティング職、HR系スタートアップCEO、ビズリーチの検索エンジニア、メルカリのエンジニアリングディレクターを経て現職。自身の転職経験(8社目)から得られたノウハウや気づきをブログ
『ユニコーン転職日記』や各SNSで発信している。ツイッター(
@tairo)
<取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/菊竹 規 図版/さい@図解クリエイター>
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『転職と副業のかけ算』
「転職アドバイスが的確すぎる!」「motoさんの発言を参考にしたら年収が上がった!」など、各種SNSで圧倒的支持――! 年収240万円の地方ホームセンター勤務から、4度の転職と副業を駆使して年収5000万円を稼ぐようになった「次世代型サラリーマン」の初の著書。
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