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美人シンガーと50代バツイチおじさんのクリスマスソング制作に密着

「おじさん」だってロマンティックなクリスマスを過ごしたい

Sakiさんと中瀬さん

Sakiさんと中瀬さん

 現在Sakiさんと中瀬さんが挑戦しているのは、「おじさんのクリスマスソング」だ。なぜクリスマスソングなのか。中瀬さん自身の悲しい経験が理由だという。 「クリスマスってロマンティックなものってイメージが強いじゃないですか。恋人と過ごす特別なクリスマスに憧れている人や、そういう経験をしている人もいっぱいいる。だけど中瀬さんは、一度もロマンティックなクリスマスを過ごしたことがないまま『おじさん』になってしまったんです」(Sakiさん) 「クリスマスには人生が詰まっている」と言う中瀬さん。彼にとってクリスマスはロマンであり、「クリスマスを楽しく過ごせたら成功者」らしい。 「若い女の子が素敵なクリスマスを過ごしたいって歌うのは当たり前ですよね。でもおじさんは絶対に言わないじゃないですか。思っていたとしても恥ずかしいから言えない。だけど、『おじさんだって特別なクリスマスを過ごしたい!』って思っている人はいるはずです。プロのアーティストがおじさんに向けて歌ってもリアルじゃない。『僕は冴えない』と思っているおじさんが歌わないと、同年代のおじさんに響かないんじゃないかって思ったんです」(Sakiさん)  歌詞作りは二人三脚で行っている。中瀬さんが持ち寄った膨大なメモの中からSakiさんが抜粋し、そこから内容を膨らませて組み立てる形だ。 膨大なメモ「ふたりで色々やり取りしながら話を引き出していって、『そのアイデアいただき!』とか『それ使おう!』とか曲に反映させていっています。もちろん、中瀬さんの言葉をそのまま使ったフレーズも。クリスマスっていう大きなモチーフの中に、中瀬さんの人生みたいなものを投影させたいと思っているので、私も彼になりきって詞を書いていっています」(Sakiさん) 「僕も本当のクリスマスがほしい」から始まるサビには、中瀬さんのクリスマスに対する思いや人生観が滲み出ている。 歌詞僕はなんの為に生きているんだろう こぼれ落ちゆくものばかりだよ もしも振り出しに戻れるのなら 次は絶対に守りたいよ 僕も本当のクリスマスが欲しい 愛に満たされた大人のクリスマス だからあなたを支えたいけど あなたが気にしているのは世間体 僕は本当のクリスマスが欲しい 愛に満たされた大人のクリスマス 今日はサンタの服を着てあなたの枕の横に プレゼントを置いてこよう きみの幸せってなんだろう ぼくの幸せってなんだろう 後悔は数知れない だけど真面目に生きてきたよ いつか本当のクリスマスが欲しい ぼくは冴えない50のおっさん バカにされても関係ないさ これが心からの願いさ(歌詞一部抜粋)>  歌詞とメロディーができあがり、トラックメイキング(本格的な曲作り)の段階にきた。曲作りとMV(ミュージックビデオ)制作を支援するのは、この春からSakiさんが所属している音楽スクール「KYOTO NEST」(京都市)だ。 「私ひとりではMV制作までできないので、KYOTO NESTの力を借りる形でレコーディングからMVまでパッケージ化してもらっています。一般人でも歌える、難しくないレベルで音を作っていって、中瀬さんに確認しつつ進めている感じですね。曲が完成したらMVはYouTube、楽曲は各配信サイトなどに公開する予定です。今は配信サイトが充実していて、ある意味で曲発表の敷居が下がっています。一般人の曲をある程度のクオリティで世の中に出すには、ちょうど良いタイミングです」(Sakiさん)

「僕と同じおじさんに希望を持ってほしい」

中瀬さん 今回の曲作りを通して、中瀬さんには二つの願いがある。ひとつは、息子に自分の生き様や背中を見せたいといった「父親」としての気持ちだ。 「息子と会っても何も喋らないんですよ。僕自身、父親や祖父とは会話が無かった。僕は父が何を考えて生きているか知らなかったし、息子も僕がどう生きているか知らないと思うんです。父が亡くなった時、遺品整理のために本棚を見て、『こんな本が好きだったんだな、もう少し喋っておけばよかったな』って後悔しました。言葉にしないと何も伝わらないなって。自分の気持ちを誰かに伝えるのって戦いだと僕は思っています」(中瀬さん)  人前で自分の曲を公開する恥ずかしさよりも、「気持ちを伝えない」家族の在り方を変えたい気持ちが強いという。  久しぶり会った息子に「自分の曲を作っている」と伝えたが、苦い顔をされたそうだ。 それでも、曲を通して自分の気持ちを家族や世間に伝えたかった。  もうひとつの願いは、同年代の「おじさん」に元気を与えることだ。 「おっさんは日々の暮らしがあるんで、無茶とかしないと思うんです。1年後も2年後もずっと同じ生活で、給料も変わらないし、生活があるからはっちゃけることもしない。我慢の連続です。若い子に何か話そうとしても「汚いおっさん」って毛嫌いされる。周りに50人くらいのおっさんがいるんですけど、みんな夢も希望も何も無いんですよ。『なんで生きてんの?』って絶望しているおっさんを笑わせたい。僕は普通のおっちゃんやけど、周りのおっさんに夢や希望を与えられたらなぁって」(中瀬さん) 談笑 そう語る中瀬さんを温かい目で見つめながら、Sakiさんは自身の気持ちを教えてくれた。 「音楽はプロだけのものじゃないと思っています。音楽を生業にしている人には作れない、一般の人だからこそ歌える心情がある。その人の生き様を歌詞に起こし、作品にする。そのことにすごく大きな価値や、やりがいを感じています。一般の人との曲作りは、これから自分のライフワークの一部にもなりそうです」(Sakiさん)  孤独なおじさんによる挑戦は人々の心を突き刺せるのか。中瀬さんのクリスマスソングは12月公開予定だ。<取材・文/倉本菜生>
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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