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「ポジティブじゃなくて、普通」手術動画も配信する車いすYouTuber・渋谷真子

「始めたばかりのときは、メインの視聴者はすでに障害を負っている人や医療従事者の人たち。でも、続けていくと、私の動画がGoogleで『脊髄損傷』『車いす』と検索すると上のほうに表示されるようになり、新しく車いすになった人たちが見てくれるようになった。事故に遭ったばかりで絶望している人から『こういう風にも生きられるんですね』と、コメントをもらえたときは、YouTubeを始めて良かったと思えましたね」

歩けるようになる希望に賭けたい

 当初の目的を達成した渋谷さんは、次は健常者の人にももっと車いすの生活について知ってもらいたいと語る。 「たとえば、コロナ対策でお店の入り口に、消毒液を置いているお店が増えたけど、手に触れなくて済むように足踏み式の消毒ポンプを置いているところも。これだと車いすの人は踏めない。普段から車いすの人たちと関わっていないとなかなか気がつかないんです」  バリアフリーをうたっているホテルでも、実際に泊まってみると、ハンガー、バスタオル、シャワーヘッドの位置が車いすの人には高かったりする。 「よく『健常者目線のバリアフリー』と言われるのですが、健常者の人が車いすに乗って、移動してみてバリアフリーかどうか決めている。だから、健常者の人にもYouTubeを見てもらえば、バリアフリーへの意識も変わっていくのではないかと思っています」  11月から渋谷さんはまた新しい挑戦を始めた。歩けるようになる可能性を信じ、再生医療の治療を開始したのだ。自分の体から取り出した細胞を培養し、点滴などで戻すことで、損傷部位が回復するかもしれないと言われている。  渋谷さんは再生医療のため、自身の脂肪を取り出す手術の様子まで撮影し、YouTubeにアップしている。
「大学病院で受けられる再生医療には、いろいろと制約がありました。まだ治験段階のところもあり、結果を出さないとならないので、受傷してから時間が経っていない人で、完全麻痺ではなく、少し動ける人しか対象にならなかったり、治療内容を口外できなかったり。それで自由診療(自己負担)の再生医療を探し、すごく高額になるのですが、私の場合は全額サポートしてくれる会社が見つかったので受けられることになりました」

ポジティブに生きることは何も特別ではない

 やはり一番のネックは金額だという。治療費は数百万円に及ぶが、効果はまだわからない。「怪しい」「体に悪い」と否定的な医者もいる。それでも、渋谷さんは「治療を受けたくても、情報が少ないので不安になってしまう。せめて自分の意志で判断できる選択肢の一つになるように再生医療についても情報を発信したい」と、ここでも一切包み隠さずにカメラを回す。 「再生医療は脊髄損傷だけでなく、糖尿病やほかの病気の治療にも試されています。偶然、同じクリニックで治療を受けている猫組長さんは、骨折のリハビリのために通っていました。それなのに日本では研究自体が資金難であまり進んでいない。健常者の人も含めて、まずはもっとみんなに関心を持ってもらいたい」  車いすになってからも挑戦を諦めない渋谷さんのポジティブさに多くの人が惹かれるが、本人はあくまでも“普通”という。「障害を負って、ポジティブに生きることは何も特別なことではない」。渋谷さんの活動が、障害者と健常者の垣根を取り払っていく。 【渋谷真子(しぶや・まこ)】 2018年7月仕事中に家の屋根から落下し、脊髄損傷による障がいを負い車いすの生活に。障がいにおいてタブーのように扱われる、性や排せつについてなどを包み隠さず自身のYouTubeで発信している。11月28日に新刊『普通で最高でハッピーなわたし』(扶桑社)を発売 YouTube:『現代のもののけ姫Maco』 Instagram:@s.m1c Twitter:@s_maco_
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