銀座で最短&最年少ママに
地道な努力が実り始めた頃、他店からオファーがあった。そこはあまりのノルマの厳しさにすぐにホステスが辞めてしまうことで有名な店だった。
「だけど私には『城』を銀座でオープンしたいという想いがありましたから、普通にやっていたらいつまでたってもその夢が叶えられないと思ったんです。なので厳しい店だからこそチャレンジしてみようと思いました。そして入店した初月からナンバーワンになることができたんです」
そしてついにその店だけでなく、他店からも「ママにならないか」という声をかけられるまでに。桃谷さんは「より挑戦できる環境を」と、創業8年ほどの大箱のクラブのママに就任することにしたという。この時まだ26歳。銀座で最年少&最短でのママ就任だった。
体調を崩してママを引退、コロナ禍で新規事業が頓挫…
その後、27歳で独立し夢だった『城』という名を冠した店をオープン。ついに自分の店を持つオーナーママとなった。しかし29歳で突然体調を崩し、入院することに。
「入退院を繰り返していたので、どうしてもお店に立つことができなくなってしまったんです。私が店に出れないことで売上もどんどん減ってしまって……オーナーママだったし、店も『城』という名前だったので二度とつぶすわけにはいかないとかなりもがいたのですが、最後には資金が底をつき、店を譲渡することにしました」
店を譲渡した後、桃谷さんは療養期間に入った。そして昨年、31歳の時に入院生活から脱したことで改めて活動を開始した。
「クラブのママとして人と人をつなぐ役割をしていた経験を活かし大手企業お力添えの元、『談話室』という場所を立ち上げることにしました。そこは社交場として、ビジネスパーソン達がご利用頂ける場所です。ビジネスのつながりを作って頂いたり、投資してくれる相手を見つけたり、意見交換ができるような場所にしたいと考えていました。店舗も押さえ、家具も内装もイタリアから取り寄せるなど2020年5月のオープンに向けて計画は進んでいたのですが……」
そこで襲ってきたのが、新型コロナウイルスだ。イタリアからの家具は届かず、そもそもオープン自体が難しくなってしまい、撤退せざるを得なかった。
「そんな頃でしたね、小池都知事の『夜の街』発言があって、ホステス達の報酬が入ってこないことや売掛の問題が深刻になっていることを知りました。私はもう引退していますが、なんとかしないといけないと思ったんです。
店が営業できず、ホステスたちに報酬が一切入ってこない中で、彼女達が何よりも恐れているのは売掛の問題。お客様は“コロナだから……”と店に来なくなり、多いと数千万にもなる売掛を払わない方もいたのです。お客様が売掛を払ってくれなければホステス達が2か月後に売掛を代わりに店に納めなくてはいけないのが暗黙のルール。だけど、そのためのお金を稼ぐことができない負のループです。
なにかできないかと考えたときに思いついたのが『シン・トーク』というチャットサービスでした」
オンライン全盛期でも“事情があって顔出しできない”キャストは多い
桃谷さんが思いついたのはクラブ、キャバクラ、ホストクラブ、スナックなどで働くキャストとオンラインで会話ができるサービスだ。
コロナ禍の外出自粛期間から、「Zoom」などを利用したオンラインキャバクラが多数登場した。そんななかで、あえてお互いの顔が見えない“アバター”でのチャットが中心となる。いったい、なぜなのか?
「オンラインキャバクラが増えつつあるなかで、事情があって顔出しできないキャストもいます。たとえば、ホステスの中にはシングルマザーで、コロナ禍のなかで子どもを預けることができない人もいて。そんな化粧やヘアセットもできない状態で誰かと顔を合わせる、まして接客をするというのが難しい状況の人も少なくありません。これは、私も入院している間に実感したことです。
実はそうした営業時間以外の稼ぎ方に悩んでいる人は多く、そういう人ほど生活が苦しかったりもします。そこでチャットやアバターでお客様とコミュニケーションが取れるツールを開発したのです」
水商売で働くホステスたちは1円も入ってこないなか、売掛を肩代わりしなければいけない恐怖を味わっていた。そんな状況でも『シン・トーク』での活動によって収入が得られるとあれば、道は開けるのでは……と桃谷さんは言う。
「ホステスたちは通常、営業時間外はお客様とLINEでやり取りをしますが、あくまで次の来店につなげるための営業でしかないんです。そこをうまく利用されてしまうこともあります。どんなに時間をかけても1円にもならず、相手には“応援する”という言葉だけで済まされてしまう。だけど、このサービスならば“応援してくれるなら投げ銭してほしいな”とお願いすることもできます。
さらに、コロナによって店舗での新規のお客様の獲得ができない状況でも、ハッシュタグ検索を活用して好みのホステスとの出会いの場にもなっています。あとは普段通っているお店でも自分の指名している担当ではないホステスと会話ができるというメリットも……。もちろん全て登録されているキャストはお店の店長がOKした子のみで、売上は店舗に入り、そこからキャストに支払われるのでお店にもメリットがあるんです」
実際に、新規でこれまで出会うことのなかった客と水商売の店がつながった例も多く、しかも投げ銭をしてくれるのは新規の客が多かったという。既存客はやり取りを重ねるうちに「そろそろお店に行くよ」と言ってくれる人が増えた。
コロナ禍の不安や孤独解消にも
「コロナの中で孤独解消のために利用してくれた方も多かったですね。会話に長けた実際のホステスがやり取りをすることで、こうした不安や孤独を解消する役割を果たしてくれる側面もあります。実はホステスに女性が人には話しにくい相談を持ち掛けるケースも多いんですよ」
いま、再びコロナの感染拡大が不安視されるなか、またまだ水商売の業態がどうなるかは見通しが立たない。しかしそんな中でも「違うアプローチで新たな扉をあけるきっかけになったら」と桃谷さんは模索している。<取材・文/松本果歩、撮影/長谷英史>
インタビュー・食レポ・レビュー記事・イベントレポートなどジャンルを問わず活動するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):
@KA_HO_MA