仕事

コロナ禍で帰国できない外国人旅行者、ヒッチハイクで旅を続ける

神戸の夜景の美しさに酔いしれる

 55日目。今日こそは絶対にガッツリ稼ごう。そう心に固く決めてゲストハウスを自転車で出発した。  そしてランチタイムの配達を終えると、休憩のためにゲストハウスに戻ることもなく、そのままディナータイムに突入した。ゲストハウスに戻ったらまたお酒に誘われてしまいそうな気がしたからである。お酒の誘惑に抗うのは非常に難しい。
ウォーターフロント

神戸のウォーターフロントは夜が特に美しい

 夜の神戸の街を自転車で走るのはこの日がはじめてだった。外灯やイルミネーションのきらきらとした光が冷たい風といっしょに流れていく。海沿いの道路を走っていると、やがてその夜景の中に神戸ポートタワーが現れた。赤くライトアップされたその姿は真っ暗な海面にそのままの色彩で映し込まれ、さざなみの中で微かに揺らいでいた。
神戸ポートタワー

神戸のランドマーク的存在の神戸ポートタワー

 56日目。日曜日とあってこの日はいつもより少し配達リクエストが少し多かった。この日も夜遅くまで配達してからゲストハウスに帰った。共同のリビングにはまたサミュエルがいた。 「今日はお酒飲まないの?」 「明日早朝にここを出発するんだ。だから今日はお酒はやめとく。それよりもカレーを食べに行かないか」

フランス人とココイチのカレー

サミュエル

ココイチのカレーを箸で食べようとするサミュエル

 彼はココイチのカレーが大好物なのだという。他の宿泊客の女の子もひとり誘って3人で閉店間際のココイチの店内に駆け込んだ。  注文したカレーを待っている間、サミュエルのこの先の旅のプランについて話を聞いた。彼は明日ヒッチハイクで淡路島に渡り、それから四国、九州へと向かう予定だという。 「このヒッチハイクの旅はいつまで続けるつもりなの?」 「それはわからないよ。今はまだフランスに帰ることができないし……」 「あ、そうか……」  サミュエルは旅が好きだという理由だけでこの旅を続けているわけではないのだ。考えてみれば、彼はけっこう深刻な状況にあるのかもしれない。が、それでも彼はいつもバカみたいに笑っていた。どんなにやばい状況だろうと決して笑みを絶やさない。彼のそんな精神性は見習いたいものだなと思った。  しばらくして注文したカレーが運ばれてきた。 「俺はカレーも箸で食べる派なんだ」  サミュエルはそう言うと、箸で少しばかりのカレーを摘んで口に運ぶ。そしてまたバカみたいな笑みを見せた。
小林ていじ

所持金3万円で東京を出発、「Uber Eats」の配達で旅費を稼ぎながら沖縄まで自転車で旅する筆者・小林ていじ

【54日目】 <支出> 食費:912円 洗濯乾燥:100円 合計:1012円 <収入> 2029円 残金:6105円 【55日目】 <支出> 食費:907円 <収入> 4031円 残金:9229円 【56日目】 <支出> 食費:2284円 <収入> 6747円 残金:1万3692円 <取材・文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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