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“自粛警察”を生み出した安易な「平等」主義。池田清彦氏の見方

飲食店の不満が爆発した恣意的な運用

 緊急事態宣言の影響緩和のための支援金には、特別定額給付金以外にもさまざまなものがあったが、そのほとんどは不満の声のほうが大きかったようだ。  特に飲食店を対象とした時短要請協力金は、当初「一店舗あたり最大一日2万円」だったが、2回目の緊急事態宣言下では「店舗の規模にかかわらず一店舗あたり一日6万円」にまでに引き上げられ、事業規模の小さい店ほど得をする傾向がより顕著になったことで、強い不公平感を生む結果になった。 「一律に支払う」という部分だけを切り取れば一見平等のように見えなくもないし、だったら特別定額給付金と同じようなメリットがあるのではないかと思うかもしれない。  もしかするとそれを踏まえて「一律」としたのかもしれないが、「なんらかの基準を満たした人だけ」というただし書きがついた時点で、話はまるで違ってくる。 「ある一定の業種だけ」「ある一定の条件をクリアしている場合だけ」となるとそれを証明しなくてはいけないから、必ず面倒な申請が必要となる。さらにはその申請が虚偽ではないかどうかを審査する段取りも加わってくる。審査するということは恣意的な運用、つまりこっちの店には支給するけれど、こっちの店には支給しない、といったことが起こりうる。恣意的な運用は不公平を生みだす元凶にもなりうるし、そのぶん不満の種にもなりやすい。  申請すればすぐにお金がもらえたとしたら、少しくらいの不満であれば払拭できた可能性はある。  しかし実際には審査をするぶんかなりの時間がかかり、支給が大幅に遅れるケースが続出したことや、もともと売り上げはあってないようなものだった店でも月にすれば180万円近くが受け取れるという金額の大きさとも相まって、多くの批判を浴びせられることになった。 「考えなくていい」「手間をかけなくていい」という平等のメリットが生かされるかどうかは、そこに至る過程が「シンプルで誰の目にもわかりやすいかどうか」にかかっているのかもしれないね。 <文/池田清彦>
1947年、東京都生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『世間のカラクリ』(新潮文庫)、『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』(宝島社新書)、『したたかでいい加減な生き物たち』(さくら舎)、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社)など多数。Twitter:@IkedaKiyohiko
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平等バカ 〜原則平等に縛られる日本社会の異常を問う〜

新型コロナワクチン接種の大混乱、緊急事態宣言下での東京オリンピック強行、拡大し続ける経済格差、公平じゃない消費税、勘違いした多様性――偽りの「公平」から目を背けるな!『ホンマでっか!? TV』でおなじみの生物学者・池田清彦が説く、不平等な現実に向き合う知恵と教養
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