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“自粛警察”を生み出した安易な「平等」主義。池田清彦氏の見方

ワクチン接種券

※写真はイメージです。以下同(Photo by photolibrary)

 新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり大混乱が起きた。同じ高齢者でも具体的に誰から打つのかに頭を無駄に悩ませ、接種態勢を整えるのに時間を要する自治体が続出したからだ。また、かつて東日本大震災の被災地支援で毛布を用意したにもかかわらず、避難所のすべての人に届かないからと配布を取りやめたことがあったそうだ。いずれも平等にこだわるあまり、非合理極まりない事態に陥っていたのである。  社会を見回すと平等に拘泥するあまり非効率なことが起きる事例が蔓延している。恣意的に「平等」を使って国民を騙す行政は大問題だが、国民の側にも「平等が何より大事」という思い込みがあるのではないか。一口に平等と言っても、必ずしも素晴らしい平等ばかりではない——。  そんな「平等」という言葉がもつ二面性について問いかけるのは、早稲田大学と山梨大学の名誉教授を務める池田清彦氏(74歳)。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ系)でもおなじみの生物学者である。 【前回記事】⇒コロナ禍でも「平等が何より大事」なのか? 池田清彦氏の問いかけ
池田清彦

池田清彦氏

(以下、池田氏の近著『平等バカ 〜原則平等に縛られる日本社会の異常を問う〜』より一部抜粋)

自粛警察の根っこにある「嫉妬羨望システム」

 公平は大事だけれど、常に最優先というわけではなく、プライオリティをあえて下げるべきときもある。  奈良県などは、地域の公平性を保つために高齢者人口の割合に応じてワクチンを均等に割り当てる方針を立てていたようだが、集団免疫の獲得を目的とするなら、あちこちに「公平に」ワクチンを分散させることより、感染者が多く出ている地域から順に「短期間のうちに集中して打つ」ことのほうが大事だったのではないかと私は思う。  天然痘ワクチンのように終生免疫ができるのなら少人数ずつ接種してもあまり問題はないが、COVID‐19のワクチンの場合は、有効期間が最短だと4か月くらい、長くても1年に満たないのではないかと言われているので、だらだらと接種に時間をかけてしまうと免疫が切れた人が感染し、その人からまた感染が拡大してしまう可能性は十分にある。  一定の地域において短期間で集中的にワクチン接種を行えば、その地域の感染者は確実に減る。「一定の地域」から漏れた人たちは「公平でない」と文句を言うかもしれないが、そうやって感染者が多い地域から抑え込んでいくやり方のほうがパンデミックの早期収束は見通しやすい。

「不完全な公平」に拒絶反応を示す人も

自粛 ただ問題は「不完全な公平」や「公平のプライオリティを下げること」に拒絶反応を示す人がものすごく多いということだ。これは、自分と同じようなタイプの人が、自分よりちょっとだけいい思いをするのが許せないという「嫉妬羨望システム」ともいうべきムードが日本の社会全体に根深く染みついているせいだろう。  緊急事態宣言中にサーフィンに行ったり、パチンコに行ったりする人を袋叩きにするいわゆる「自粛警察」などはまさにその典型で、「自分は家で我慢しているのに、楽しそうなことをするヤツがいるのは許せない」というのが彼らの言い分なのである。  サーフィンに行ったりパチンコに行くことがどれだけ楽しいことか私にはよくわからないけれど、その程度の差に目くじらを立てるメンタリティのほうがよほど問題だと私は思う。なぜなら現状への不満に端を発するこういうメンタリティの蔓延こそが、安易な平等主義をはびこらせる要因になっているからだ。
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「10万円一律給付」が受け入れられた理由
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平等バカ 〜原則平等に縛られる日本社会の異常を問う〜

新型コロナワクチン接種の大混乱、緊急事態宣言下での東京オリンピック強行、拡大し続ける経済格差、公平じゃない消費税、勘違いした多様性――偽りの「公平」から目を背けるな!『ホンマでっか!? TV』でおなじみの生物学者・池田清彦が説く、不平等な現実に向き合う知恵と教養
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