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ワクチン接種の早い遅いに平等を求めたら…コロナ禍で露呈した“平等バカ”という病

不公平に目くじらを立てすぎると損をする

 多くの自治体が「先着順」で接種の順番を決めるというシステムを採用したのは、半ば運任せのシステムにするほうが「公平」だと考えたせいだと思う。  ネット予約に関していえば、ネットが使えなかったり、身近に手伝ってくれる人がいない人は申し込むことさえできないのだから、少なくとも高齢者にとってはまったく公平ではないのだけどね。 しかも、結果的にはネットも電話もパンクして予約受け付けがストップしてしまった。そのせいでただでさえ遅れ気味のワクチン接種はさらに遅れ、住民は多大な不利益を被ることになったわけだ。  まあ、このあたりは想像力の欠如としか言いようがない。ただ、こういう自治体にも相馬市のようにあらかじめ日時指定するという考えが、もしかしたらあったのかもしれない。しかし、結局そうしなかったのは、勝手に日時指定をしたりすると後回しにされた人たちから「不公平だ!」とクレームがくるのではないかと危惧したからだろう。  もちろん、クレームを恐れるのは無責任主義のなせる業ではあるのだが、「何がなんでも公平にしておかないとここの住民は許さないだろう」と自治体に思わせてしまう空気のほうにも問題はある。  公平というのは、質量的に、あるいは時間的に、ある程度の幅の中で成立するものだと考えるほうが現実的であり、合理的なのである。

あからさまな不公平は国民の倫理観さえ揺るがす

 ある程度の幅というのはケース・バイ・ケースなので、どれくらいが許容範囲なのかは一概に言えないが、限度を超えればそれは単なる不公平である。  緊急事態宣言を発令して国民に自粛生活を強いるなか、東京オリンピック・パラリンピックを開催するなどというのは常軌を逸した明らかな不公平である。  感染拡大予防のために店を閉めろとか、酒を出すな、などと言ってただでさえ疲弊している飲食店をさらに追い込み、仕事はなるべくリモートにしろ、授業はできるだけオンラインでやれ、子どもの運動会は中止しろ、などと言っている傍で、世界中から人を呼び寄せて派手なイベントをやっているのだからむちゃくちゃだよな。しかもそれを政府主導でやっているのだから、開いた口がふさがらないとはこのことだ。
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国民は「ルールなんか守ったところでなんになる」
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1947年、東京都生まれ。生物学者。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『世間のカラクリ』(新潮文庫)、『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』(宝島社新書)、『したたかでいい加減な生き物たち』(さくら舎)、『騙されない老後 権力に迎合しない不良老人のすすめ』(扶桑社)など多数。Twitter:@IkedaKiyohiko

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平等バカ 〜原則平等に縛られる日本社会の異常を問う〜

新型コロナワクチン接種の大混乱、緊急事態宣言下での東京オリンピック強行、拡大し続ける経済格差、公平じゃない消費税、勘違いした多様性――偽りの「公平」から目を背けるな!『ホンマでっか!? TV』でおなじみの生物学者・池田清彦が説く、不平等な現実に向き合う知恵と教養
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